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「えー、男子諸君はいかがわしい映画など見に行ったりしないように」
「先生！なんでそんなこと知っているんですか？」
勢いよく手をあげた生徒に彼は笑ってごまかす。
「そこをつっこまないように」
× × ×
「なぁにを見に行きたいだって？」
目の前の少女は明らかに不機嫌になった。
「だから、この坂の下の映画館に行ってだなぁ…」
「……坂の下の映画館って…集合時間までひたすら映画を見るって言うのか？」
腰に両手を当てて、絶対に嫌だと少年二人を睨み付ける。
「彩女…。これは男の社会科見学だ！」
胸を張って言う風間に菊宮は目を細めていっそう不機嫌になる。
「ポルノか…」
上野公園周辺には通常のロードショウをかける映画館と並んでポルノ映画を専門とする映画館も多数存在する。
そのひとつに行こうと云うのだ。
「制服では入れないだろう」
「それはもう、ちゃんと着替えを用意してきた！」
持ってきたスポーツバックを叩き風間はニヤリと笑う。
「おまえもか…隼人」
「まぁ…男同士のつき合いだ」
郷にいては見る機会もないと二人は拳を叩きあわせる。
「…………せいぜい…補導されないよう気をつけるんだな」
× × ×
「みなさん、気をつけるんですよ」
バスを離れ、思い思いの方角へと散って行く生徒たちを見送ってから石見は缶コーヒーを開ける。
結局、あの日は目当ての映画を見ることは出来なかった。
窓口で『学生料金』の文字を見つけついつい「学生２枚」と云って学生証を差し出したため、ポルノではなく、同じ館で上映されていたアニメのチケットを渡されたのだ。
「昔からドジだったからなぁ」
験力も成績も同期では一番だったのだが、妙に抜けた部分があった。
今もいろいろと走り回っているようだが、バカなドジを踏んでいなければいい…。
石見は空を見上げてもう一口コーヒーを啜った。
END
200406040012
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