|
「しっかし、ワカ。よくそれでもつなぁ」
両手にはいっぱいの荷物。
その前を行く少女は持つでもなくそのまま歩いている。
春休みに月詠の招きで東京まで出てきたが、美沙紀は相変わらずのわがままで誠を振り回している。
「美沙紀さんのこれは今になって始まったわけではないですから」
「そりゃ、そうかもしれんが。やっぱり、自分…少しは文句言った方がええんちゃうか？」
手にしている荷物だって、大部分はすでに宿なり郷の方に送っている。
ここにあるのはごく一部だ。
「僕はこれでかまいませんよ。なんせ、美沙紀さんがわがまま言える相手は自分だけですから」
あっさりと。
それでいて、ひどく晴れやかに誠は笑う。
「あんなぁ。ノロケられていてこういうのはなんだが、やっぱ下克上した方がええんちゃうか？」
「してますよ。それなりにね」
相好を崩さない誠に対し、もう呆れるやらうらやましいやら。
「ええ天気やなぁ」
東京の切り取ったような青空に晃はただ苦笑いを浮かべた。
おしまい
|