一触即発
不穏な気配を感じて飛鳥は振り返った。
この気配を感じるのは初めてではない。
わずかな悪意。
そしてどちらかといえば好奇に満ちたその空気に間合いを計る。
「そこ！」
振り返りざま手にしていたシャーペンを投げつける。
たん
音を立ててそれは壁に突き刺さった。
まるでダーツのように。
「危ないな…」
不自然なほど爽やかな笑顔を見せ、彼は立っていた。
「………総代…」
九条綾人は常と変わらぬ様子で髪をかき上げた手をポケットにしまい込む。
「飛鳥、どうした？」
「いえ、非常に不穏な気配を感じたので、とっさに身を守ったんですが」
「不穏？」
「ええ。最近、よく分からないみみっちい嫌がらせが増えていて困ってるんですよ。総代も気をつけて下さい」
はっきりしない物言いに綾人は曖昧な笑みで返す。
「そうか、大変だな」
「ええ。オレはごく普通に生活したいだけなんですけどね。誰かさんのおかげでえらい目に遭ってますよ」
「昇段演武で優勝したからなぁ。里のお偉方もおまえには注目しているからな」
ははははは。
豪快に笑う綾人を前に口元だけ歪めて飛鳥は笑う。
「で、おまえはなんでここにいるんだ？」
執行部に飛鳥が一人で居ることなど滅多にない。
「待ち合わせをしているんです」
グループ学習の為に。
「教室で待ってれば良いんじゃないのか？」
「掃除当番から追い出されました」
書院はすでに他の連中に占領されていた。
「総代こそ、何をしに来たんですか？今日はテニス部では？」
「ああ、２年生が居ないからな。１年に譲ってきたよ」
「そうですか」
素っ気なく返す。
二人の間にあまり友好的とは思えない沈黙が流れた時、入口の戸が開いた。
「伊波さん、お待たせしました」
資料を抱えた誠が入ってきた。
誠は中の空気に「失礼しました」と立ち去ろうとする。
「……誠か」
がっかりしたような綾人の声に誠は首を傾げる。
「あの…なにか？」
「いや、なんでもない。二人ともがんばれよ」
ぽんぽんと二人の肩を叩くとへたくそな口笛を吹きながら綾人は去っていった。
「伊波さん…。なにがあったんですか？」
無言のまま飛鳥は拳を握りしめる。
「…いつかぼこる！」
おしまい
拍手からサルベージしました（笑）
うちのイナミンって本当に綾人の玩具だな♪
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