「シホはいるか？」
　 イザークの声にシホが立ち上がる。
　 二言三言。
　 そばに来たイザークがシホに伝えると少女の表情が明るくなる。
「………」
「よぉ。なにを落ち込んでるんだ？」
　 肩を叩かれ慌てて振り返る。
「エルスマン副長……」
　 なにを言われるのか構えてしまう。
「青春だね…」
「は？」
「アイザック……やけ酒するなら付き合うぞ……」
　 にやにやと…何がいいたいのかわかってしまう。
「別に……私は……落ち込んでなどいません」
　 そう口にはしたものの余り強くは言えない。
「同期の中では人気高かったんだろ？」
「気が強いですからね。メカニックからは好かれてましたよ」
「へー。お前は？」
「………なにが言いたいんですか？」
「まあまぁ。そんなツンケンするなって」
「副長は誰に失恋したんですか？」
　 思いがけない切り返しにディアッカは胸を押さえる。
「アイザック・マウくん……」
　 やたらと丁寧な呼び方にアイザックは一歩下がって間合いをとる。
「………」
「やっぱじっくり飲み明かしたいなぁ」
　 腕が伸ばされ、肩を掴む……。
「！！」
　 そう思われた瞬間、強い力で後ろに引っ張られる。
「ディアッカ。アイザックにちょっかい出すのは止めてください」
「……」
「なにか？」
　 シホに睨まれてディアッカは「親交を深めていただけだ」と繰り返す。
「…あ、ありがとう。シホ」
　 助けられたアイザックはしどろもどろになりながら礼を口にする。
「同期の誼みよ。それに、あなたはうちの小隊の大切なメンバーですもの」
　 さらりと告げられた言葉にディアッカは口笛で返す。
「ディアッカ…？」
　 きっと睨まれてディアッカは目を反らす。
「……私はこれから隊長と会議に行きますけど、アイザックに余計なちょっかいを出すのはやめてくださいね」
　 そう言い残してシホはイザークの元へと駆け寄る。
　 ドアの向こうに二人の姿が消えるとアイザックは重いため息をついてディアッカを見た。
「…とことん飲みましょう……」

おしまい
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