ザフトの要塞が、次々と落とされて行く。
しかも、地球軍の核攻撃によって――。

それを知り、プラントの者達は誰もが怒りを止められなくなっていた。
誰が、この怒りを静められると言うのだろう？
再び、血のバレンタインの悲劇を繰り返そうとしている地球軍に。
居るとすれば、かの歌姫――ラクス・クラインだけで。その歌姫も今は行方知れず…。
ただ自分は、彼女が敵である筈のアークエンジェルと共に居ると知っている。
仲間であった筈の、彼等――アスランやディアッカと一緒に。

「隊長、どうかされたのですか？」

不意に声を掛けられ、イザークは振り向く。
そこには彼が率いるジュール隊の副官である、シホ・ハーネンフースが居た。

「シホか…。いや、何でも無い」
「嘘を仰らないで下さい」

隊長である以上、部下に悟られる訳にはいかない。
そう思いイザークは答えたが、彼女は引き下がらなかった。

「嘘だと？」
「はい。隊長の事ですから、お分かりなのでしょう？」

そんなシホの言葉に、イザークは口を噤む。
さすがに自分の副官だけあって、彼女は鋭い。
しかし…ならば、どうすれば良いと言うのか。
彼女が、その答えを持っているとでも？

核を使い、そのままプラントへと進軍を続ける地球軍。
その時まで、もう猶予は無い。
そして、これが最後の戦いになるだろうと誰もが思っている。そうしなければ、ならないと。
自分もそう思っている。だが……迷いが、ある。
ほんの少し前までは、持っていなかった迷いが。

『騙されているんだ！お前は…っ！！』

必死のように、絞り出した言葉。
共に居た仲間達は、皆逝ってしまった。
あいつ――ディアッカも、もう生きてはいないものと思っていた。
彼の機体、バスターを見た時ですら、あいつだとは思わなかった。
けれど、生きていたのだ。ストライクと共に、『敵』として。
今まで戦っていた相手。それが、仲間である筈など無い。だから、そう言った。
だが、あいつはそんな俺を見ても、顔色一つ変えなかった。

『さて、それはどっちかね？』

あの時は頭に血が上り気が付こうともしなかったが、時が経つにつれ、それがあいつらしいとも思った。
自分の意思にそぐわない事を、やるような奴では無い。
それは、アカデミーの頃から共に居た自分がよく分かっている。

反対に、軍の在り方に疑問を持つようになっていた自分が浮き彫りになってくる。
最初は小さく。けれど、それは段々と広がって行って…。
自分達が何をしようとしているのか、それすらも分からなくなりそうで。

「隊長…隊長？」
「あ…ああ、すまない」

彼女の呼び声に、自分がぼんやりとしていた事に気が付く。
これでは隊長失格だと、イザーク自身そう思う。
だがこの迷いが晴れない限り…自分は、あの苛酷な戦場で戦えるのだろうか？

「いえ。やはり、少し休まれた方が…」
「そんな暇は無い」
「けれど、隊長…」

まっすぐなシホの瞳が、イザークを覗く。
この瞳に、迷いは無いのだろうか？
この戦いに、その先に在る筈の未来に…。
イザークは半場無意識のように、口を開いた。

「シホ…シホ・ハーネンフース」
「！はい」

自分のフルネームを呼ばれ、シホは反射的のように敬礼を取る。
彼女の存在は何故か、昔かつて在った筈のものを思い起こさせる。
イザーク自身、それが何かは気が付いていない。
けれど、それが今の自分に必要なものだとは感じていた。
それ故の、問い。

「お前は、何の為に此処に居る？」

軍服を身に纏い、血で血を流すしかない戦場へと赴くしかない道に。
シホはその問いに、すぐさま答えた。

「守る為、です。隊長」

――仲間を、プラントを。そして、大切な人を。

それ以上、彼女は何も答えず何も問わない。
ただ彼女の目は先程と変わらず、まっすぐにイザークを見ているだけ。
故に彼女の言葉は強く、迷いを払う。

「…そうだな」

それが、一番の理由の筈だ。
殺されたから殺す、その繰り返しが答えでは決して無い筈だ。

（ここで迷っていても、仕方が無い）

すべき事がある。そして、行かなければ始まらないのだ。
何処かで何かが、間違っているのかもしれない。
それも、行けば答えに辿り着けるだろう。

「直に、出撃だ。…行くぞ、シホ」
「はい、隊長！」

イザークの表情に僅かに浮かんだ笑みに、シホも微笑みながら答える。
迷ってはいない。自分のすべき事は、此処にあるのだ。

そしてこの先に、きっと望む答えがあるのだから…―。

　〜後書き＆感謝の気持ち〜

リク権強奪企画による、ぼけら様のリクエスト「イザーク×シホ」です。
イザシホ初…と言うか、イザークさえも初書きです（苦笑）。

まさか私がイザシホを書く日が来ようとは、思ってもみませんでした。
アニメで出て来れば＆イザシホにハマれば、書けるかな〜とは思ってたけど。
アニメではまだ出て来ないし、ゲームはやってないし、シホが出ているらしい漫画だって見てない。
シホに関する事は、聞いた話とネットで少し見ただけの事しか知らない。そんな私が…！（長）
でも興味はあるカプなので、分からないなりに頑張ってみました。

この話は、ＳＥＥＤの最終回辺りです。
ディアッカに会い、迷いながらも戦場に立つイザーク。
そんな彼を支えたのは、やはりシホであれば良いなと思います。
あとイメージ的に、シホはイザーク達の一期後輩（アカデミーの）かなと思うのですがどうでしょう？
何故か、同期よりも後輩のイメージがあるのですが…。そこまでの資料は、公開されてないのでしょうかね。

この話は、ぼけら様に捧げさせて頂きます。
リクエスト、ありがとうございました！

05.02.26 by時風砂輝