はぁ…。
　付け合わせのピクルスにフォークを刺してメイリンは盛大な溜息をついた。
「なんなのよ？好き嫌いせずに全部食べなさいよ」
「……お姉ちゃん……」
　何かを言おうとしたメイリンは溜息をまた一つ吐き眉を寄せる姉から目を反らせた。
「あーあ、どうしてお姉ちゃんなんだろう。あたし…お兄ちゃんが欲しかったななぁ」
「はぁ？」
　妹の思考が理解できずにルナマリアは目を瞬かせた。
「だって、お兄ちゃんならきっと優しくしてくれると思うんだよね」
「…あんたね…それじゃあたしが優しくないみたいじゃない」
　口元を引き攣らせた姉の姿に妹は手を叩くと「お姉ちゃんは鬼とか悪魔の部類だよね」と溜息交じりに返してくる。
「メイリン…」
「なあに？」
「いい機会だからあたしからも言わせてもらうけど、あたしもあんたみたいな妹じゃなくて兄が欲しかったわよ」

「お兄ちゃんが欲しい！」
　そんな二人の会話を食堂の片隅で聞く少年が三人。
「ルナもメイリンもお兄ちゃんが欲しいんだとよ」
「あーオレ、メイリンのお兄ちゃんならなってもいいかなぁ…」
「ルナと結婚するか？」
「げっ冗談。ルナはちよっと…」
　メカニックの言葉が途切れる。やり取りを耳にしたルナマリアが腕を組んでテーブルの脇に立っていた。
「ヨウラン…ヴィーノ……あんたたちみたいな『お兄ちゃん』はこっちから願下げよ！」
　拳が二人の頭にヒットする。
「うわっわっわっ！暴力反対！」
　ヴィーノが大慌てで手を振る。
「ルナ…」
　それまで黙っていたシンは立ち上がるとルナマリアの手を取った。
「な…なによ……」
　真剣な…鋭い眼差しにルナマリアは怯む。
「もう一度『お兄ちゃん』って言ってくれないか」
「はぁ？」
　ぎゅっと両手を挟み込むシンの目付きは尋常ではない。
「お…おにいちゃん…」
「もう一度！」
「お兄ちゃん……」
　不意にとろけるような表情に変わったシンはルナマリアを強く抱きしめた。
「マユ〜」

「あたし…シンみたいなお兄ちゃんはいらないかも…」
　メイリンの呟きは誰の耳にも届かなかった。

おしまい
200505091254