あれから少しの時間が過ぎて、それから沢山の出来事があった。
　
　そして、今日も。
　
「こら！」
　母親の声に少年は首をすくめる。
「また勝手につまみ食いして。ダメでしょう」
「でも、お願いしたら母さんはくれたの？」
　その言葉に母親は眉を寄せると振り上げていた拳を下ろした。
「まったく…誰に似たのかしら」
　言わなくても分かっているがつい言葉にしてしまう。
　よく似ているから。
　顔も髪の色も。
　これで瞳の色まで同じだったら生き返って来たのだと思ってしまうだろう。
「ひとつだけよ。それ以上はダメ。お客さまの分なんだから。いいわね」
　少年は歯を見せて笑う。
「まったくもう…。ほら、グラスとお皿を用意してちょうだい。人数分よ」
　何人だっけ？と少年は名前を挙げて数えはじめる。
　今年家に来ると言っていたのは１０人。
　彼らは皆家族を連れてくる。
　だから、実際にはもっと多くの人数で…。
　みんなそれぞれに食べ物や飲み物を持ってくることになっているが果たして間に合うだろうか？
　それなりに年をとったとはいえ、食べ盛りの子どもたちも来ることだし少し心配になってくる。
「３０人分で良かったかしら？」などと呟いたとき、最初の来訪を知らせるベルが鳴った。

ＥＮＤ