「最近、失ったモノの大きさについて考えるんだ」
　静かにグラスを揺らしながら呟いた。
「軍人だとか戦争だとか理由を付けてどれだけ嘘を重ねてきたのかと…」
　命令を受け、それを遂行する。
　それが当たり前だと思っていた。
　だから最初の衝撃にも耐えられたし、立ち向かう気持ちがあったんだと。
　正直言って、選べと言われたときも自分の前に選択肢など存在しなかった。
　この艦を降りることなど出来なかった。
　他の者が易々と代わることの出来る仕事とは思えなかった。
「だから、生き残ったことを喜びながらも死に損ねたことを悔やむ自分がいる」
　頭で理解しながら、感情をどうにもできない自分が。
「わかってる。よくわかってるさ」
　生きているから、生き残っているから…。
　ただそれだけで前に進んでいく義務が生まれたことを。
　立ち止まることは許されていなかったから。

END