「ほらほら、君もたまにはゆっくりしないと」
　ぽんぽんと肩を叩かれてマリューは溜息をついた。
「そうはおっしゃいますが…」
　肩の凝りをほぐすように動く手にこれ以上何を言っても無駄だと観念して身を委ねる。
　つぼを心得た動きに考えを続けるのも馬鹿らしい。
「お上手ですこと。どこで覚えたんですか？」
　この男は本当に器用だ。
　手先を使う小仕事など軽々と熟してしまう。
「そりゃ、もう軍人なんかやってると色んなことがあんだよ。パイロットにも付き合いがあるし」
「私も軍人ですけど。ちなみにメカニックあがりの艦長してますが肩のほぐし方なんて教えて貰いませんでしたわ」
　ふざけて返すと驚いた様子で笑う。
「だいぶ楽になったんじゃないか？」
　ふざけて見せるぐらいには。
「ええ。ほんと」
「じゃあ、もう少し…」
　見た目よりも大きな手が髪を掻き分けうなじに触れる。
　首の凝りを優しくほぐして行く。
　体中の疲れが取れて行くような気持ちになって口元が綻ぶ。
　首から肩へ指が滑り降りた次の瞬間、首に柔らかな感触を覚えマリューは思わず声を漏らして身震いする。
「なにをっ！」
　振り返った瞬間男は笑っていた。
「あまりにも綺麗なうなじだったんでつい…」
　怒ろうと開いた唇を奪われる。
　突然のことに腕を延ばして口付けを繰り返す人の頭を軽く叩く。
「ごめん。マリューを楽しませようと思ったんだ」
　キスから解放されたものの呆れて何も言えない。
「…お気持ちは嬉しいですけど、まだ勤務時間です」
「でも今はメインの索敵は他の艦がやってるんだよ。少しぐらい…」
　背後から抱き締め、マリューの肩に顔を埋める。
「…ムウ…。ここは艦長の執務室なの。まだ私は仕事中よ。手を離して」
　胸に当てられた手の甲を抓る。
　いまにも胸を揉みはじめそうな状態では落ち着かない。
「えー」
　こどもみたいな返事にマリューはもう一度息を吐くと渋々身体を放した人を振り返る。
「あと二時間でシフトが上がるから、そうしたら全身を解して貰おうかしら？」
　首を傾げ、少しだけ媚びるような視線を投げ掛ける。
「了解。とろとろにとろけそうなぐらいにしてあげましょう」
　ウインクと共に返された言葉にマリューは笑う。
「じゃあ、しっかり仕事してちょうだい」
「はいはい。またあとでね」
「はいはい」
　仕方の無い男だと思いつつも憎むことも拒むことも出来ない。
　少し軽くなった肩を回して小さく笑った。

おしまい
200412022315