「もう…なんかいい料理はないかしら」
　ケバブ一つであんなに揉めるなんて。
　マリューは書庫から持って来たパーティ料理の本とくびっきりになっていた。
　そんな姿にムウは苦笑する。
「きみがそこまで料理にいれ込んでるなんて知らなかったよ」
「だって親睦を深めようと思ったのにあの騒ぎよ。悔しいじゃない」
　有り合わせでも美味しい大皿料理の項目に目をこらし、なにかないかと調べている。
「親睦は深まったんじゃないのか？虎もお嬢ちゃんも楽しそうだったし」
「それはまた別！」
「あはははは…」
　笑ってごまかすしかない。
「せっかく腕を奮ったのに」
「料理が好きということか」
　背後から抱き締める。
「料理も含めて昔から作ったり直したりは好きなのよ」
「だからメカニックになったの？」
　顎を持ち上げムウは唇を重ねる。
　返事をさせないように執拗に舌を絡ませる。
「んっ……」
　息苦しさに腕をのばしてようやく長いキスが終わる。
「ムウ！」
　怒った額にもう一度唇を寄せる。
「作るのが得意なら子作りしない？」
　ストレートなセリフに呆れて物も言えない。
　黙ったままのマリューの身体を抱えあげ、ベッドの上におろす。
「ちょっ！ムウ！」
「いいじゃない。料理ならこれから先いくらでも付き合うから。今夜はマリューが欲しい」
　耳元にやさしく囁かれマリューは「しかたのない人」と広い胸に返した。

おわり
200405170024