速やかに準備を済ませ退艦するように。
　そっけない辞令にムウは息を吐いた。
（準備っていってもねぇ…）
　私物は皆無に近い。
　元々の所属艦が破壊されて以降は転戦に次ぐ転戦で私物を充実させる暇など無かった。
　服は支給品だし、部屋に持ち込んだ雑誌の類は艦内の共有物だ。
　自分で買った物が無いわけではないのだが。
（そりゃぁ…多少オーブで手に入れたけどね…）
　あくまでも多少。
　それだってカバンに詰めて持ちだそうとは思わない。
（こうやってみるとオレの存在ってなんだろうね…）
　詰め込んだ荷物はカバン一つにも満たない。
　自分用の物と云えばパイロットスーツやヘルメット。それ以外は誰が持っていてもおかしくない品ばかり。
（コイツも残していくかな…）
　スーツもヘルメットも必要な物はまた支給されるだろう。
　それ以上に何か自分がここにいたことを示す証が欲しかった。
（オレが残せるもんなんてこれぐらいだからなぁ…）
　ベッドの上に広げたスーツを見てムウは自嘲気味に肩をすくめた。
（おお…嫌だ。いつになく未練がましいじゃないか…）
　誰のために、誰に示すために残そうとしているのだろうか…。
　少なすぎる荷物を手にしてムウはただ一人、気づいて欲しい人のことを思った。

END
200311120243