「おまえたち。いいか、こいつはアスランだ良く覚えておけよ」
　五対の瞳がアスランを見た。
　まるで値踏みをするように上から下まで舐めるような視線に身を強張らせる。
「カガリ…」
「大丈夫だ。笑顔でいろ」
「だが…」
「獲って食われやしないから。わたしの私邸でのボディガードたちだ」
　ボディガードという職業人にあうのは初めてではないが、このような経験は初めてだった。
　戸惑うアスランを余所にカガリはにこにこと楽しそうに笑っている。
「リーダーは真ん中のでかいやつで名前はラージだ」
　ラージは真っ直ぐにアスランを見ている。
「でかいからラージ？」
「いや。王様みたいだから」
　そうして順番に名前を告げられ、顔を合わせる。
　カガリと自分と確認するように見比べられ居心地の悪さを感じずにはいられない。
「よし。覚えたな。アスランは今日からここに住むから、噛み付いたりするなよ」

　外から楽しそうな声が聞こえてアスランは窓の外に目を転じた。
　黒い塊の間に金色の髪が見える。
　楽しそうな表情を見る限りどっちが遊んでもらっているのか。
　そんな思いで眺めていると、視線に気がついた一頭が顔を上げると他の四頭がそれに続く。
　最後にカガリが自分を見上げて手を振る。
「アスラン」
　降りて来い。
　早く。
　言葉にされなくても解っていた。
　しょうがない。
　そう自分に言い聞かせて窓枠に手をかけると一気に飛び降りた。
　軽く着地を決めるとカガリが目を丸くして自分を見ていた。
「びっくりさせるなよ」
「べつに初めてじゃないだろう。それにさっさと降りてこいって言ったのはカガリだろ」
「わたしはそんなこと…」
「そうか。ならば戻るけど」
　一歩踏み出した途端、背中に重みを感じた。
「カ…」
　カガリではない。
　振り返らずにいる間に前からもぶつかって来るものが。
「ラージ！シメオン！」
　視線を下げたとたん、犬の顔が目の前にあった。
「やぁ…」
　二頭につられ、他の犬も飛び掛かって来る。
　あわせて五頭もの犬によって地面に押し倒されたアスランは呆然としていた。
「大丈夫か？」
「多分」
　カガリが近寄って来ると犬たちは大人しく離れて座る。
「おまえに遊んで貰いたいんじゃ…」
　並んでいる犬たちを見ると揃って立ち上がり背を向ける。
「あれ？」
　首を傾げるカガリにアスランは笑いかける。
「カガリがオレと遊びたいんじゃないのか？」
　犬は飼い主の心が解るらしいぞ。
　何気なく言ったつもりだったが、カガリは赤面してうろたえ、観念して頷くとアスランの傍らに膝をついた。
「そう……かも…」
　耳まで赤いカガリの身体に手を伸ばし腕の中へと抱き締める。
「いってくれればオレはいつだ…」
　腕の中の少女を地面に寝かせてキスをしようとした瞬間、衝撃がアスランを襲った。
「ラージ？！」
　アスランは振り返り犬の姿を確認する。
　すかさず顔を背ける姿に溜息をつくしかなかった。

おしまい
200411162233