こどもたちに手を引かれカガリは伝導所の裏手にある林の中へと連れて行かれる。
「どこに連れていってくれるんだ？」
「秘密のいいところ！」
　坂を登ったことは覚えている。林の中をどう歩いたのかはよく解らない。目隠しをされているため足に伝わる感触と空気の違いから感じ取るしかない。
「座って」
　言われるままに座ると背後にのしかかる小さな子供の存在を感じる。
　たどたどしい手つきで目隠しを解いているのだがなかなか上手く行かないようだ。
「とれた〜！」
　その声とともに目を開けると目の前に鮮やかな色が広がっていた。
　そこにある花たちの名をカガリはよく知らない。手入れの行き届いたアスハの庭や公園では見掛けない種類ばかりだ。
「きれいだな」
「でしょう」
　自慢げに告げるこどもたちにありがとうと言うとまだまだよと返された。
　首を傾げると動いちゃだめと注意され、背後から伸びた手が頭に何かを乗せた。
　途端こどもたちはきゃあきゃあと声をあげる。
　何事かと思うと目の前に鏡が広げられた。
　頭の上に置かれていたのは白爪草を編んで作った花冠だった。
「カガリお姉ちゃんは男の子みたいな恰好ばかりしてるでしょ。だから今日はお姫様になってもらおうと思うの！」
　カガリ姫だと騒ぐこどもたちの声に複雑な気分になる。
「お姫様なのか？」
　問い掛けにこどもたちは声を揃えて笑う。
　その中に子供とは思えない響きが交じっていてカガリは振り返るとその人を怒鳴り付けた。
「アスラン！笑うなばか！」
「ダメだよ。お姫様は汚い言葉を使ったら」
　その言葉にアスランは目尻に涙を浮かべている。
　色々言っても逆効果と思いぐっと堪える。
「では、カガリ姫」
　こどもたちに促され、アスランは笑いを飲み込むと手を差しのべる。その手を取りカガリは優雅に立ち上がって見せる。
　普段は男の子のようだが本物の姫だ。まったく知らないわけじゃ無い。
「アスランお兄ちゃん、お姉ちゃん、綺麗でしょう」
「あ…ああ、きれいだよ。」
　穏やかに微笑むと頬に手を延ばす。
「あ…アス…」
　こどもたちの前でアスランの唇が頬に触れる。
　再びこどもたちが歓声を上げる。
「お姫様。よろしいですか？」
「へ？」
　なにが…と思った次の瞬間には抱えられていた。
　いわゆるお姫様抱っこというカタチだ。
　きゃあきゃあという声が再び上がる。
　普段なら断固拒否するカガリだがこどもたちの笑顔の前では何も言えないのだった。

おしまい
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