「カガリ様は黙っていれば可愛らしいお姫さまに見えるのに」
「ドレスを着てても口を開いたら馬子にも衣装」
「元は良いのに残念なことに…」
「おまえらなぁ…」
　ドレス姿で現れたカガリを少女たちは口々にからかう。
　もっとも言う方も言われる方も慣れたことなので、まわりが呆れるぐらいの騒がしいやり取りが交わされる。
「四人とも…少し静かにしてちょうだい」
「ちょっと待て。四人とは私もか？」
「カガリ様もです」
　仕事の妨げになるほどの声にエリカが苦情を言う。
　だが、それが少女たちの話し声を消したのは一瞬のことですぐにまたおしゃべりが始まる。
「まったく…お前たちがうるさいから、私まで文句を言われたじゃないか」
「あら、カガリ様がそういう格好で来るから話のネタになるんです」
「仕方ないだろう。表に父上の客がいるんだ」
「なら表にいらしたらいいのに」
「わざわざこんなところまでねぇ」
「うるさい。客の相手は堅苦しくていやなんだよ」
　カガリの言葉にまたどっと笑い声が起きる。
　華やかな少女たちの声に多少のうるささを感じながらも周囲の技師たちはそのおかしさに忍び笑いをもらした。
　
　
　その日から少しの時間が過ぎた。
　
　
　カガリは鏡に映った自分のドレス姿を見つめる。
「カガリ？」
　キラの声に振り返る。
「準備はいい？」
「う…うん…」
　少し緊張して答えると、キラはカガリの前に跪き手袋に包まれた手を恭しく取る。
「キラ…？」
「凄く綺麗なんでびっくりした」
　心からそう思っているのが分かってカガリはただありがとうとだけ返す。
「……キラ…」
「なに？」
「この格好…ヘンじゃないか？」
「なんで？よく似合ってるよ」
「馬子にも…」
「言わないよ。だって、すごく…カガリに似合ってるんだよ。本当に惜しいぐらいの美人だよ」
　だから平気だよ。安心して。
　そう言ってカガリの腕を優しく叩く。
「キラ…」
「ほら。泣いちゃダメだよ」
　今にも溢れそうになる涙をキラはハンカチを取り出して拭う。
「ほら、行こう。アスランが待ってる」
　キラの声に頷き、腕を取って歩き始める。
　あの扉の向こうにアスランが待っている。
　これから先の人生を共に歩いていく人だ。
　二人で。
　ずっと一緒に。

END
200311191715