「また来たよ」
　母の好きだった花を供え黙祷する。
　遺体の無い形だけの墓。
　墓石には名前の他に生没年しか刻まれていない。
　それは父が望んだことだった。
「戦争が終わったんだ」
　今頃調印式も終わり、パーティが行われているはずだ。
「やっと終わったんだ」
　ジェネシスの崩壊から約４か月。
　大西洋連邦を中心とする地球軍とプラント、オーブの間に和平条約が結ばれた。
　プラントは完全な独立国家となり、旧プラント理事国が有していた排他的な権利は全て廃止された。
　またこの戦争によって地球軍に占領された領土の全てが戦争開始前の国家に返還され、オーブをはじめとする中立国家に対する賠償も取り決められた。
「まだスタート地点にたったばかりだけどな」
　力強い声が聞こえた。
「カガリ…どうして…」
　月の式典会場にいるはずの少女の姿にアスランは驚きを隠せない。
「抜け出して来た」
　一番足の速い艦を借りて調印後のスピーチが終わるのもそこそこに月を飛び出して来たのだ。
　カガリが寿命が縮まる思いをしながらここまで来たことをアスランは知らなかった。
　そんな思いをしてもどうしても今日、この場所で伝えたいことがあった。
　悲しみと憎しみのはじまった日に。
「わたしからアスランのご両親に申し上げたいことがあったから」
　カガリは持って来た花をレノアの墓だけでなくその隣に作られた真新しい墓にも供える。
「戦争は終わりました。でもこれはまだスタートを切ったばかりで、私たちはこれからお互いの中にある不理解と憎しみに立ち向かわなければなりません」
　国として、人間として。
　家族を、友を失った悲しみや憎しみはそう簡単に無くなるものじゃないから。
「私の力は弱々しくて頼りないものですが…ナチュラルとコーディネイターが手を取り合って行ける世界を作るために尽くして行きます。だから…」
　カガリはそこで言葉を切るとアスランの顔を見る。
　薄暗闇の中でアスランは頷く。
「だから、アスランを私にください」
　カガリは見えない死者に向かって頭を下げる。
　自分の思いを確かな物にするために。
　そうして静かに顔を上げたカガリの肩をアスランは抱く。
「母さん……父さん…オレはオーブに行くよ。多分、あまりここには来れなくなるだろうけど…オレはカガリと歩いてゆくから」
　新しい時代を、世界を築くために。
「オレをこの世界に生み出してくれてありがとう」

END
200401140419