「………」
　待ち合わせ場所まで来てアスランはこめかみを押さえた。
　キラがいる。
　別にキラのことは嫌いじゃない。嫌いじゃないが…。
「…人のデートについてくるなよ…」
　目があった瞬間、思わず本音が出た。
　その言葉がしっかり聞こえていたのか、爽やかに見せかけた薄暗い笑みをキラが向けてくる。
　ぐっ…。
　何か嫌な予感がしてアスランは息をのんだ。
「…カガリ」
　気を取り直して声をかけるとカガリはいつものように笑顔を向けてくる。
　同じような顔をしているのにその浮かべている表情には雲泥の差がある。
「遅れてゴメン」
　然り気なく隣りに立って肩に手をまわそうとした途端、邪魔をする腕が見えた。
「…キラ…」
　幼なじみに向きなおるともう帰っていいぞと手で示す。
「あ、そうだ。もう帰っていいぞ。ありがとな」
　それに気づいたカガリの言葉にキラは首を振る。
「今日はカガリを家に送り届けるまで帰れないよ」
　護衛をキサカさんに頼まれたんだからとしごく真面目ぶってキラが云う。
「いいよ。おまえ…あまり役に立たないから」
　さらりとカガリは云う。
「…僕…役に立たない？」
　不安そうな視線にカガリは慌てる。
「…いや、…だから…。えーと、おまえは優秀だよ。うん。みんなも感謝しているし、私もだ」
　あくどい！
　カガリの声を聞きながらアスランは怒鳴りつけてやりたい気持ちになった。
　あんな風に云われたら誰だって返答に詰まる。
「だけど…ＳＰとしては役立たずだから」
　さくっと…。
　言葉が放たれた。
「…え…どうして…」
「だって…銃の扱い下手じゃないか。格闘技だって技術的には私より劣るし」
　ざくざくざく。
　鋭い言葉の刃が突き刺さる。
　下手に飾りたてていない言葉がストレートに突き刺さる。
「ひどい…」
「いや…でも…実際何かあったら、アスランの方が役に立つし」
　役に立つという表現がやや気になるが、キラよりも頼られているという優越感にアスランは浸る。
「それに…」
　カガリの視線がアスランに向けられる。
　少し戸惑ったようなカガリの表情にアスランは微笑み返す。
「一応デート…だから」
　その『一応』を退けてくれと思いつつアスランは応用に頷いてみせる。
「というわけだから、邪魔者は帰った、帰った」
　ほら。
　犬でも追い払うようなアスランの仕草にキラをとりまく空気がどす黒くなったように感じる。
「アスランなんて……×■○▲☆！」
　文字にならない言葉を吐き捨て、キラはかけて行く。
　二人はあっけにとられたままその背を見送った。
　その姿が見えなくなると、揃って溜息をつき複雑な思いで顔を見合わせた。

END
200311092209