「難しい顔してどうした？」
　モニターとにらめっこをしているアスランにカガリが問いかける。
「メモを整理してるんだ」
　アスランが眉を寄せて考え込んでいるメモの山をカガリは盗み見る。
　びっしりと書かれた数字や人名。それに付記されたメモの数々。
　そのいくつかはカガリにも見覚えがあった。
「戦争がはじまって…終わった。その間に自分が何をして、どうなったのか…思い出せる限り残しておこうと思うんだ」
　誰かに伝えるためではなく、自分が忘れないために。
　短い間にあまりにも色々なことがあって、その全てが忘却の波に浚われてしまう前に記録しておかなければならない。
　そうしなければ、忘れてしまう日が来るから。
「悪いことも…いいこともな」
　少し寂しそうに笑ってモニターを見つめるアスランの横顔がカガリの胸を締め付ける。
　自分とは違う哀しみや苦しみ、そして痛みがアスランの中にもある。
　そのことがわかるから。
　たまらなく切なくなってカガリは画面に目を落としている人を抱きしめた。
「わたしも…わすれない」
　自分を抱きしめている少女の手に自らの手を添える。
「じゃぁ、覚悟してくれよ」
　覚悟？
　腕がぴくりと反応する。
「全部書いておくからな。おまえがオレを殺そうとしたことも……今ここでオレの支えとなっていることも全て」
　敵として出会ったから。
　今誰よりも愛しているから。
「書き終わったら…見せてくれるんだろう？」
　アスランは首を振る。
　答えはNO。
「オレが…墓まで持っていくよ。すべてね」

END
200401150145