（笑え。私）
　カガリは自らに命じる。
　鏡の向こうの少女は少しひきつった笑いを浮かべている。
　もっとにこやかに。
　見る者を安心させるように。
　それが上に立つ者の務め。
（だから、笑え）
　穏やかな笑みを浮かべてみせてもどこかひきつった感じが否めない。
　それではいけないのだ。
　考えれば考えるほど顔つきは不機嫌になり眉間の皺は濃くなる。
「なにをやってるんだ？」
　自分が入室してきたことに気づきもせず鏡相手の百面相を続けているカガリにアスランは声をかける。
「笑顔の練習」
　振り返ることもなくカガリは鏡に挑んでいる。
「カガリ…」
　少し心配そうに。
「ちょっと待ってろ。なんか…顔がひきつって…」
「カガリ…」
　少し呆れた声で。
　それでも振り向かないカガリの肩を掴んで自分の方に向ける。
「カガリ」
　アスランはカガリの頬をつまむ。
「なに…す…」
　文句を言おうと開かれた口はアスランの唇によって塞がれる。
　唇を離したアスランは口をぱくぱくさせる少女を強く抱きしめる。
「大丈夫。無理に笑顔を作らなくてもカガリは可愛いから」
「ば…。可愛いなんてあんまり意味はないだろう！」
「あるよ。オレを見て笑うカガリはいつだって最高の笑顔なんだから」

END
200312180242