「これは…誰だ？」
　何気なく見たデスクの上。
　そこに置かれた写真立ての中の一枚にアスランは目を止めた。
　若いカップルの間に立ち、その両方の腕を取る少女。
　長い金髪を淡い緑のリボンで結び、同系色のドレスを着て笑っている。
「…あら、どうかして？」
　無口な少年が更に無口になっていることにデスクの主は気づいて尋ねる。
「いや…その…この写真が」
　アスランの示す写真を見てエリカは笑うとそれを少年に渡す。
「ああ。私と主人よ。真ん中はカガリさま」
　カガリ？
　写真をまじまじと見つめる。
　頭の左右で結わえられた髪はまっすぐに腰まで落ちている。
　口角を持ち上げて穏やかに笑う様はどこかの令嬢といった感じである。
　確かにカガリはオーブのお姫さまだ。
　普段はがさつで少年のように見える彼女だが、一国の姫として恥ずかしくない態度を示すことが出来ることをアスランは知っていた。
　だから何もおかしくないはずなのに、何故か奇妙さを写真の中に感じてしまう。
「カガリさま、可愛いでしょう。この写真では澄ましているけど、この頃から手の付けられない利かん坊だったのよ」
　エリカの説明にようやくアスランは納得がいった。
「あら、わかる？」
「ええ。わかりますよ」
　アスランは力強く頷く。
　写真をもう一度じっくりと見つめる。
　違和感の正体。
　それは瞳だった。
　澄ました服装や表情のはずなのに、その視線だけが違っていた。
　口元の穏やかさとは裏腹にその瞳は挑戦的だ。
「ちっとも変わらないんだ」
　この頃から。
　きっとカメラマンにわがままを言ったに違いない少女の瞳の輝きにアスランは微笑みをこぼした。

END
200311070217