突然暴力的な勢いで降り出した南国の雨にアスランは戸惑った。
　手近な店の軒下に入って止むのを待つ。
　雲が移動するまでの僅かな間。
　それさえすぎればあっけないぐらいあっさりと止んでしまう雨だから。
　
　この地に来る度にこの雨には驚かされる。
　計画的な天候変化しかないプラント育ちには突然降り出す雨というのはそれまで経験がなかった。
　月も他のコロニーも天候は完全にコントロールされており、予測不能な天候というのは地球上にしか存在しなかった。
　戸惑うアスランを余所にこの街の人々は特に慌てる様子もなく傘をさしたり、軒下に移動して雨をやり過ごしている。
　中には雨など意に介さないと歩き続けている人もいる。
　そんな人々を横目に腕時計に目をやる。
　このままでは待ち合わせに間に合いそうもない。
　小降りなら駆けて行くのだが、目の前の雨はそういうレベルではないようだ。
「待ち合わせですか？」
　何度も時計を見ていると同じように雨宿りしている男に話しかけられた。
「ええ。ほんの数ブロック先なんですが」
　予定時刻５分前。
　走れば余裕で間に合うが…。
「まぁ、あと５分も待てばやむでしょうから焦りなさんな」
　雲の流れを見て男が言う。
「そうですか？」
「そうですよ。相手の方もよほどずぶぬれになる状況でもなければ待っていてくれますよ」
　待ち合わせ場所の側には喫茶店もあったはずだ。
　ならば彼女のことだからその中で待っているだろう。
　そして遅れてきた自分に対して少し怒りながら言うのだ。
「遅刻の時のルールは分かってるだろうな？」
　待たせた方が食事を奢る。
　そう言って伝票を押しつけてくるのだ。
　一杯のお茶。
　それでチャラにしてやると。
　少し気恥ずかしそうに怒る姿が目に浮かぶ。
「ほら、もうやみますよ」
　隣の男の言葉に空を見上げる。
　雲間から降りる光の梯子。
　その光が雨に洗われた街を輝かせる。
「ありがとうございました」
　男に声をかけ、その陽射しの下へと歩き出す。

END
200310072230