「手、見せて」
　唐突にそう云われてアスランは目が点になった。
「ほら、早く手を見せろって。グラブとって」
　乱暴な手つきでカガリは作業用のグラブをはぎ取る。
「…オイル臭いぞ」
　整備作業中のため、グラブには所々機械油のシミが出来ている。
「ああ、別にいい」
　はぎ取ったグラブを無造作に浮かべるとカガリはアスランの手に自分のそれを重ねる。
「……やっぱり」
　呟いた声は心なしか沈んでいる。
「カガリ？」
「なんでもない。気にするな。邪魔したな」
　向きを変えて移動しようとしたカガリの手首をアスランは捕らえる。
「余計気になるだろう。訳を聞くまで離さないぞ」
「だから気にするなって」
　振り解こうとするがうまく行かない。
　そこは男と女。そしてナチュラルとコーディネイター。元々の力が違う。
「…わかった。もう一度手を見せろ」
　手を広げるとめんどくさそうにその上に重ね合わせる。
「こうやると…私の手よりおまえの手の方がきれいに見えるって…」
「誰が？」
「キラ」
　確かに目の前の少女の手は同年代のラクスなどから比べると掌や指先が堅くなっているのがわかる。
　だが、ほっそりとした手は女性のものであり、少年のものとは違う。
「バランスの問題じゃないのか？」
　アスランの手は掌が大きく、指も長い。
　だから、見栄えが良い。
「カガリの手はきれいだよ」
「でも…私の手はラクスとは違う。武器を持つ者の手だ」
　銃火器を扱うために出来たタコや操縦訓練できたマメ。
　手袋をはめれば隠れてしまうが、素手ではどうにもならない。
「カガリ。オレの手も、人殺しの手だよ」
　アカデミーにいる間、沢山の人殺しの技術を身につけた。
　銃もナイフもMSも…。
　そしてその為に出来た傷もある。
「オレはカガリの手が好きだよ」
　合わせていた手を取って自らの頬に当てる。
「だって、この手は大切な人を守るために あるんだろう」
　国を民を…友を。
　自分の力で守るために。
「おまえはこの手でオレを守ってくれた。だから、オレはオレの手でカガリを守るよ」
　頬に当てていた掌にアスランは口づけた。

END
200309180100