『どうだそっち？』
  大好きな声が聞こえて、私は笑みを浮かべる。
「昨日は大忙しでしたよ」
  七夕イベントのため、生徒会は大忙しだった。
  真面目に仕事を進めようとする颯斗くんと、盛り上げようとがんばったあげく、発明品を暴走させて怒られる翼くん。
  それに巻き込まれてあたふたする他のメンバーと……。
  イベント自体は文句なしの大成功だったから、みんなでずっと笑っていた。
『手伝いに行けたら良かったんだけどな』
  レポートの提出が重なって、しばらく身動きが取れないという話は前々から聞いていた。
  電話をくれるくらいの余裕は出来たみたいだ。
「大丈夫ですよ。先輩はどうでした？」
『どうって？』
「さみしかったんじゃないかなぁ…って」
  私の言葉に向こうで息を飲むのがわかる。
『……………なわけないだろ』
  ああ、強がってるな。
  そんな気がする。
  だって、イベントごとにすっごく張り切って、色んな人とはしゃいで。
  一樹先輩は誰よりも人と一緒にいるのが好きだから。
『久しぶりに静かに星を見ていたよ』
  いまも、星を見てる？
  私はつられるように窓を開けて空を見る。
『そっちほど綺麗じゃないけどな』
  ここは特別だから。
『月子』
  名前を呼ばれて反射的に「はい」と答える。
『夏休み。暇あるか？』
  日程はわかってると思うけど。
「先輩がどうしても会いたいって言うなら時間作りますよ」
  ちょっと意地悪言ってみる。
『じゃぁ、作れ』
  簡潔な言葉が返ってきて、私は一瞬にして顔が赤くなる。
『本当は夏休み中って言ってやりたいところだけど、無理のない範囲で良いぞ』
  続く言葉が耳を素通りしていく。
  ああ、ダメだ。
  だって、嬉しいから。
  電話はいつもしているし、メールだって。
  でも、直接顔を合わせるのは、ＧＷ以来だから。
  だから、まだ始まってもいない夏休みを思って私の鼓動が早打ちする。
『月子、つーきーこー』
  呼びかけに私は慌てて返事をする。
『なに妄想してんだ？』
「べ…別に妄想なんて」
  あ、なんだろう。
  すっごくにやにや笑ってるんだろうなって、そんな気がする。
『愛してる』
  あああ！
  もう、とんでもない爆弾が降ってきた。
  私はその場にしゃがみ込む。
  先輩はどうすれば私が喜ぶが、どうすれば私が慌てるか、全部知ってるんだから。
『返事は？』
  のんきな声で尋ねてくる。
「好きです。大好きです。愛してます」
  たたみ掛けるように告げると爆笑になって返ってくる。
  ほんと、この人に私は弱いんだから。
「先輩。私の七夕のお願いってわかります？」
『……なんだ？』
「先輩に振り回されないで済みますように」
『そりゃ無理だ』
  即答？！
『だって、おまえ。俺たちはそういう星回りなんだよ。互いに振り回して、離れない二連星だ』
  私は息を飲む。
「それ、ほんとうですか？」
  星詠みでそう出てるって言うの？
『さぁな。おまえ相手だと何にも見えなくなるからなぁ』
  あああ。
  もう、いい。
  なんて恥ずかしい人なんだ。
  うんうん。知ってた。けど、でも…。
「先輩は、七夕はなんてお願いしたんですか？」
  思わず話をはぐらかす。
『月子が笑顔でいられますように』
  降参です。
  もう、だめです。
「来年の七夕は一緒に過ごしましょうね」
『そうだな、彦星と織姫みたいに引き離されないようにしないとな』
  それって、伝説の話？
  私はごろんと床に転がる。
  もうほんとうに負けっ放しの気分になる。
  なのにそれが一番心地良い。
  だって、そんな風にわがまま言うのは私だけ。
  これは先輩の不器用な甘え方。
  だから私は笑顔で告げる。
「夏休み、楽しみにしていますからね」

おしまい
201007082138