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仕事仕事仕事。
呪文のように三回繰り返してイザークは妻を見た。
台所でフライパンと格闘しているその姿にこれから何を食べさせられるのか不安を掻き立てられる。
手を出したい処をじっと堪えて送られて来ているメールに目を落とす。
住宅問題にエネルギー問題、あれやこれやと持ち込まれる希望を仕分けながら次の評議会で話すことをまとめてゆく。
木星計画の第三次派遣案については地球諸国とも話し合いが必要だろう。
それらをまとめあげ顔を上げると少し不服そうに立つ妻と目が合った。
「できたけど」
「なんだ。すぐ声をかけてくれてもかまわなかったが」
「すっごく難しい顔していたからやめたの。それにこっちの仕上がりにも自信がないし」
テーブルに並べられた料理は彩りも香も申し分無い。
「うまくなったじゃないか」
最初の頃に比べれば格段に進歩している。
「少しはね。でも、あたしとしてはあなたより上手になりたいのよ。今だってロールキャベツ以外は負けてるし」
母の得意料理で父の好物。
レシピは大叔母の手による。
「家庭料理は勝ち負けじゃ無いだろう」
「あなたにはそうでもあたしには勝負なの！美味しさであなたをビックリさせたいんだから！」
すぐに頬を膨らませる。
「だったらそうとうな修業が必要だぞ」
「やるわよ！あたし、負けるのは嫌いなの」
拳を握りしめ宣言する。
「とりあえず今あなたに勝てるのは若さと愛情だけですもの」
年齢はどうにもならないだろう。
「若さはともかく愛情はどうだかな」
食べ終わった器を流しに出す。
「あら、試してみる？」
「どうやって？」
「そうね…」
考え込む振りをしてイザークを見る。
「あたしがあなたに恋していた時間はあなたより長いってことかしら」
おわり
200405120200
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