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「なにか欲しいものある？」
突然のセリフにカガリは目をしばたたかせた。
「なんだ…突然」
「だってもうすぐ僕たちの誕生日じゃないか」
たんじょうび。
カガリは改めてキラを見ると口元を押さえた。
すっかり忘れていたらしい。
「一昨年は互いの存在すらしらなかったし、去年はそれどころじゃなかったから。今年は…」
「そうだよな。私たちもうすぐ揃って１７になるんだよな」
ぼけっぷりがカガリらしくてキラは吹き出した。
「僕はともかく、カガリは毎日忙しかったから忘れるのも無理ないとは思うけど」
「忘れてたわけじゃないんだけど…考えてなかったんだ」
毎日あれやこれやと忙しすぎて時間の流れについていくのが精一杯だった。
「無理はダメだよ」
「平気だ。私はおまえなんかより鍛えてるし、もともとかなり丈夫だからな」
力こぶを見せる片割れに「ドレス姿ではやめるんだよ」と注意だけはする。
「キ〜ラ〜！」
「暴力反対！」
じゃれあう二人を諌めるように咳ばらいが一つ。
「姫さま。ご姉弟仲がよろしいのは喜ばしいことですがあまり騒ぐとお腹の子に障りますよ」
マーナの言葉にカガリは「大丈夫だ」と笑い返す。
「私の子ならこれぐらい平気だろう」
「普通初産のご婦人と云うのはもう少し慎重なんですけど」
と溜息一つ。
「そうだ、カガリ…子供のことまだアスランに…」
ばつ悪そうにカガリは頭を掻く。
「あいつ…まだプラントで忙しいんだろう。中々言い出せなくって」
「６ヶ月過ぎるまで気がつかなかった姫さまもどうかなさってるんですよ。早く判ってればいろいろできましたのに。いまさら恥ずかしくて打ち明けられないなんて」
「だって…忙しかったから」
「忙しかったからじゃないですよ。シモンズ主任が気付かなければもっと経つまで気がつかれなかった可能性だって高いんですから」「……でも、気付かなかったのはマーナだって一緒じゃないか」
カガリは頬を膨らませる。
「マーナさんの言う通りだよ。ハーフの場合はトラブルも起きやすいんだから」
「おまえまでマーナの味方かよ」
「…カガリ…」
言葉を探すキラにカガリは笑いかける。
「まぁ、過ぎたことはしかたない。でも医者も順調だと言ってくれてるし、もういつ産まれても私は心構えは出来てるぞ」
母は強し。
もともと強いカガリがさらに強くなったようにキラには思える。
「そうだ。プレゼントだったな」
少し考えてから手をたたき合わせる。
「ラクスに子守り唄を歌ってもらえないか？」
「え？」
「宇宙一の歌姫の子守り唄なんて豪華だろう」
「でもそれってカガリあてじゃ…」
構わないだろう。
カガリは笑う。
「うん。ラクスに頼んでみるよ」
「よろしくたのむ。で、キラは何が欲しい？」
同じ質問を返されてキラは頬を掻く。
「実は僕も思いつかなくって…」
「バカだな。人に聞くなら自分のぐらい考えてこいよ」
「たしかに…」
二人は顔を見合わせてまた笑った。
◇◆◇
「キラ…カガリは？」
画面に出て来た親友の姿にアスランは戸惑う。
「えっと…今日はもう休んでるんで」
「休んでるって…どこか悪いのか？」
「違うよ。最近忙しいから眠れるときに寝てるんだよ」
妙に不安を煽る物言いにアスランは眉を曇らせる。
「カガリは本当に元気なんだろうな」
「元気だよ。別になにもないよ」
慌てる姿がますます怪しい。
「…すぐそっちに行く！！」
「え、アスラン、ちょっ…」
◇◆◇
「カガリ…どうしよう」
不安そうに自分を見る弟にカガリは肩を竦める。
「まあ、仕方ないよな…。おまえ、嘘下手だし」
「だって！」
「いまさら遅いだろう。どうやって迎えるか考えないとなあ」
カガリはにやりと笑う。
◇◆◇
アスランは一番速い船を乗り継いでオーブまでやってきた。
最近、カガリと直接話す機会がなかったのだが、時差や忙しさ故と諦めていたのだがなにかあったのではないだろうか…。
不安だけが募る。
「カガリ…無事でいてくれ」
手をきつく握りあわせた。
◇◆◇
「アスランさまがお着きになりましたが」
マーナの声にカガリは顔を上げる。
「通してくれ」
手櫛で髪を調え、笑顔を作る。
「カガリ！！」
駆け込んで来たアスランはベッドの上のカガリに言葉を失う。
「どうしたんだ！キラが！」
慌てるアスランの唇に指を添えて黙らせる。
「静かにしてくれないか。眠ってるんだから」
眠ってる！？
絶句するアスランにカガリは傍らの小さな籠からなにかを取り出す。
「アキト。パパだぞ」
ぱぱ…。
言葉の意味が判らずアスランは呆然とする。
「ほら。かわいいだろう」
布に包まれた小さな存在を見せられ足が竦む。
人間。
小さくて柔らかそうな手がなにかを求めてうごめく。
「カガリ…」
「先月産まれた。アキトだ」
先月…。
プラントでの処理の為身動きがとれなくなっていた時期だ。
「その…黙っていて悪かったな。妊娠が判ったのが遅くてなんとなく言い出せなかったんだ。おまえ…ずっと忙しそうだったし」
「ばっ…」
アスランは思わずカガリを抱き締めた。
「無事で良かった…」
「アスラン…」
「結婚しよう！順番が逆になったがすぐにでも結婚しよう」
ふにゃぁ。
返事はアキトから上がった。
「アキトはパパが好きか？」
カガリは息子に優しく話し掛ける。
「オレもアキトとカガリを愛してるぞ」
それは優しい情景だった。
おわれ
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