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プラントの首府たるアプリリウス市の郊外にあたる街に二人は降り立った。
眼前にそびえる大きな門とその奥の屋敷の姿にアリスが息を飲む。
「ここ…どこ？」
戸惑う妹の背を押し敷地内に入ると玄関のベルを鳴らす。
これだけの構えに不釣り合いなほど古風なベル。
アリスは腕の中のハロを抱きしめる。
『ハロ！ハロ！』
不意に聞こえてきた耳慣れた響きにアリスは声の聞こえてきた方を見る。
次の瞬間、ドアが開いた。
「まぁ、アキト。それにアリスちゃん。いらっしゃいませ」
軽やかな声と共に現れた女性の姿にアリスはここがどこだか悟った。
「ラクスおばちゃま！？」
「ようこそプラントへ」
女性らしいラインを強調した優美なドレス姿。
それでいて背に流されるだけのピンクの髪。
両親と年の変わらないはずの女性は全く違う生き物に見える。
対抗意識を持つことすらばからしくなるような完璧な美女。
その女性に促されてバラ園の四阿へと足を向ける。
「アリスちゃんはこちらは初めてでしたわね」
普段は月で会うしかない絶世の歌姫は静かに微笑む。
「……はい…」
修学旅行でプラントに来たことはあったが、クライン邸を訪れるのは初めてだった。
「アキトはプラントにいるけど滅多に来て下さらないのよ」
「……気軽に来訪するには苦学生には荷が勝ちすぎます」
ロボットが運んできたお茶をラクスは振る舞う。
「アスランもカガリさんも滅多に来て下さらないでしょう。他のみなさんも月や地球にいらっしゃるからあまり会えなくて」
このみなさんがどのあたりの人までを指すのかアリスにはよくわからなかった。
ただ流されるままに質問に答えて茶を飲む。
何でそうしているのかという疑問を持つことすら出来ない雰囲気が目の前の女性にはあった。
「あら、どなたかいらしたみたい」
ラクスの言葉にアリスは首を傾げる。
音などしただろうか？
そう思っているうちによく知った足音が聞こえてきた。
「………イザーク…？」
アリスは席を立ち、駆け出したい気持ちをずっと抑えてその人が近づいてくるのを待った。
「議会開催中にも関わらずお越しいただいてありがとうございます。イザーク・ジュール」
ラクスの声が四阿に響く。
「いいえ。本日は休会日でしたから問題は……」
社交的な挨拶を交わしていたイザークの声が止まった。
「…ラクス・クライン……」
イザークは自分を落ちつかせるようにラクスに問いかける。
「アキトさんとアリスちゃんですわ」
やんわりとラクスは微笑む。
「お久しぶりです。イザークおじさん」
アキトは立ち上がるとイザークに握手を求める。
いつの間にか背はイザークとそう変わらなくなっている少年の姿にイザークは一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに「大きくなったな」とにこやかに笑い手を握り返した。
次の瞬間、イザークと目があったアリスはあからさまに顔を背ける。
「あら、お茶が足りませんわね。それになにかつまむ物も必要ですわね」
イザークの分のお茶の用意がない。
そう理由を付けてラクスは立ち上がる。
その見え見えな気のまわし方にアキトも「手伝いますよ」と席を立つ。
二人が席を外すと、イザークは空いた席に腰を下ろす。
「なるほど。ラクス・クラインからの呼び出しを受けて何事かと思えばこんなことか」
そうでなければわざわざラクスがお茶でもいかがですかなどと呼び出すことは無い。
「アリス」
イザークの声は硬い。
普段アリスに向けられる声とは明らかに質が違う。
どうしていいかわからなくなって行く。
「ばか…」
「は？」
「イザークのバカ！大バカ！」
アリスは混乱したまま振り返ると涙のいっぱい溜まった瞳でイザークを睨み付けた。
「なんで…なんでプレゼントだけ届けさせるのよ！」
自分でも支離滅裂だと思いながら怒鳴る。
そのアリスの姿にイザークは固まった。
涙を浮かべた表情。
それはイザークが最も苦手とする姿だった。
「宅配便で貰ったってありがとうのキスもできないじゃない！」
身勝手なセリフを並び立てるアリスの姿に呆気にとられるしかない。
だから、言葉を選び間違えた。
「ガキが…」
普段はこの少女に対して決して言わない言葉。
それを使ってしまうほどにイザーク自身も狼狽えていたのだがそんなことはアリスには分かっていない。
「イザークのバカ！大っ嫌いよ。あなたなんて、あなたなんて！」
「ああ、結構だ。そんなこと言うためにプラントまで来たのか？ご苦労なことだな」
鼻で笑われた。
完全に子ども扱いされた。
なにかがアリスの中で弾けた。
次の瞬間、思いも寄らぬ速さでアリスの平手がイザークの頬に入る。
それは初めての感触だった。
イザークは自分を叩いて泣く少女の顔を見た。
「アリス…」
少女は答えない。
「アリス・ザラ」
もう一度イザークは名を呼ぶ。
「まったく…おまえのオヤジですからオレに平手を喰らわせたことは無いぞ」
イザークはアリスの手を引く。
そのとき、手首を飾るブレスレットが目に入った。
「気は済んだか？」
「済まないわよ。ちっとも済まないわよ」
手の甲で無理矢理涙を拭う少女にハンカチを差し出す。
「本当は何しに来た」
ハンカチを奪い取りアリスは涙を拭うとイザークを見た。
「あなたに会いに来たのよ。あなたにプレゼントありがとうって言いたくて、驚かせたくってここまできたのよ」
6につづく
200401271750
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