吐く息が真っ白になる。
　手袋をはめた手にも冷気は染み込んでくるようだ。
　この調子なら夜が明けることには一面の雪景色になっているだろう。
　朝早く起きたら雪で真っ白だったらいいな。
　そういって温かい布団の中で眠ったのはいつのことだったろうか？
　思い出せないほど昔のことではない。
　これからの時間を考えればつい昨日のようなものだろう。
　朝起きて、雪で真っ白だったら庭で雪合戦しよう。
　そう約束して眠ったのだ。
　もう取り戻すことの出来ない遠い日に。
　空を見上げると雪はくるくると回りながら降り落ちてくる。
　雪の精霊たちは踊ることが大好きだからね。
　話してくれた人はもういない。
　寂寥感に目を閉じる。

「風邪ひきますよ」
　温められた外套を掛けられて振り返る。
「きれいですね。明日起きて真っ白だったら雪合戦でもしますか？」
「……バカを言うな。子どもじゃあるまいし」
　怒りを含んだ口調で返すと「そうですね」という返事が返ってきた。
　だが言葉はそこで終わらなかった。
「でも、雪を見ていて風邪を引くのは子どものすることですよ」
「……………わかった。明日、起きたときに十分な雪があったら雪合戦を決行してやる」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわり