「寒いなぁ…」
　どんよりと曇った空を見上げてナッシュは呟いた。
　口にしたところで温かくなるわけでもないのに言わずにはいられない。
　雪が降ってないのがせめてもの救いだ。
　山積みになった薪を一抱えして家の中へと駆け戻る。
　それを三往復ほどして暖炉の側に十分な薪の山を作り上げる。
　毎日使う物だけに減りも早い。
　特にこの冬は家にいることもあってアッという間に薪は消費されて行く。
（天気のいいうちに切り出しておかないと…）
　やることは薪の数以上に山積みで、自然溜息が漏れる。
　ひとまず暖炉に火を入れ、ソファに座るとどっと疲れが出る。
「歳かねぇ…オレも…」
　三十を越えてからの肉体労働は厳しく思える。
　特に、人使いの荒い上司や家族を持つとなおさらである。
　疲れた肩を一人揉みほぐす。
「なにをやっておる」
　弛れっと火に当たっているナッシュを叱る声がする。
「疲れを癒したいんだよ。オレも歳だし…」
　見上げるといつまでも若い姿をした女が腰に手を当てて睨んでいる。
「何をぬかす。若造が」
「へいへい。オババさまに比べればオレは三十路の若造ですよ」
　自虐的なナッシュの首筋にシエラはそっと手を添える。
「うおっ！」
　ひんやりとした手の冷たさにナッシュが哀れな声を上げる。
「なんなら妾が疲れなど感じないようにしてやろうか？」
「…シエラさん……。またご冗談を」
　顔をひきつらせるナッシュにシエラは意地悪く笑いかける。
「ではもうしばらく疲れることをして貰おうか？」
　その言葉にナッシュは目を細めるとシエラに向かって手を伸ばした。

END