３人はいつものようにテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
　ナナミが作る食べ物の中で茶だけは唯一まともに安心して食すことの出来るものだった。
「えー！ジョウイもユニコーン少年団に入っちゃうの！？」
　良く響くナナミの声にジョウイは耳を押さえる。
「ジョウイもって…。当たり前じゃないか。ユニコーン少年団にはキャロの男は全員入るんだから…」
　ケインは茶を飲み干すとじろっとナナミを睨み付ける。
「だって、だって…」
　わなわなと握り拳を震わせる。
「ずるい！　２人だけで！」
「２人だけって、みんなも一緒だよ。強制なんだから」
「でもずるい！　あたしも行く！」
「無理だよ。いくらナナミでも一応は女なんだから」
「一応ってね！　ケイン！　おねーちゃんになんてこというの！」
「おねーちゃんって別にナナミが先に拾われただけじゃないか」
　ゲンカクの養い子はいつものように口げんかを楽しんでいる。
　ジョウイはそれを横目で見ながらのんびりと茶をすする。
　うちに比べて仲がいいよなぁ…。
　そんなジョウイの思いなどお構いなしに２人は大きな声でどなりあっている。
　いつもの調子ならそろそろ互いの得物を持ち出すはずだ。
　巻き込まれたらかなわないのでジョウイはすっと立ち上がる。
「じゃあ、これで僕は帰るよ。ごちそうさま」
　壁に立て掛けた棍を手にすると２人は何事もなかったかのようににこやかに手を振ってくれる。
　はじめて会ったときから変わらない。
　亡きゲンカクは子どもたちのこんなやり取りを縄張り争いだと笑って済ませていた。
　たいてい最後はナナミが料理を作って、無理矢理食べさせて終わる。
　ふつうなら「食事を作ってやらない」と言われて文句を言うモノだが、ナナミに関しては食事を作る法が怖い。
　ジョウイもいろいろと食べさせられてきたが拷問道具になるのではないかと思える腕前だ。
　ふっと空を見上げると青い空にのんびりとした雲が浮かんでいる。
　あの雲はどこに行くのだろうか…。
　ルルノイエかクリスタルバレーか…。
　それともトラン共和国やカナナンだろうか…。
　あの雲のように流れて行くことが出来たらどんなに楽しいだろうか。
　ジョウイは笑みを浮かべると大きく伸びをした。
　まだ人生ははじまったばかりだ。
　まずはユニコーン少年団として街を出よう。それから上手く行けばルルノイエに仕官できるかもしれない。
　これから僕たちの旅ははじまる。
　ジョウイはもういちど空を仰ぎ見ると家のドアを開けた。

おわり