一日の仕事を終え、のんびりと森の中を歩く。
危険の無い本拠地の裏手にある森は疲れを癒す一番の方法であった。
（……今日も一日お疲れさま……）
自分にそっと呟く。
（……！）
その時、人ならざるものの気配を感じ彼は振り向いた。
人の背の高さよりやや上の位置に枝を広げた樹の上に美しい少女がいた。
月の光を紡いだような美しい銀糸の髪と優しさと厳しさを併せ持つ整った顔に輝く紫水晶の瞳。
彼の視線を受けて少女が微笑んだ。
やわらかな笑み。
何も知らなければ、一目で魅了されてしまいそうな麗しい表情。
「シ……」
「おんしの」
呼びかけようとする彼を制して少女が口を開いた。
「ナレーションとわらわの役、見事であった」
「……見てたのか……」
しかも2日連続で……。
気がつかなかったのは大いなる失態であった。
「なかなか気の利いたアドリブでな。わらわとしては楽しみが増えたものじゃ」
穏やかな口調、穏やかな表情と声。
それが穏やかであればあるほど恐怖心が足元から立ち上ってくる。
「声をかけてくれれば……」
「ここにはわらわの知っているものも多くおるでな」
「ははは……」
少女はふわりと樹から下りた。
その体を彼は反射的に抱き止める。
「で、誰が、何をしたとおんしは申したかのう？」
首筋にかかる吐息に彼は我が身のうかつさを呪った。
　
　
後日、この場面を垣間見たＧ氏から話を聞いたＡ記者の手によって壁新聞の記事にされたのは言うまでもない。