女もね、３０過ぎるといろいろあるの。
　そう自分で言って、崩れてくる天井を見ながらちょっとだけ落ち込んだ。
　たとえば、今わたしがこの天井の下敷きになって死んだら、あなたは哀しんでくれるかしら？
　それとも、こんな女がいたこと自体忘れてしまったのかしら？
　別れると言ったとき、少しだけあなたは驚いて、それから…
「冗談だろう、アップル」
ってはじめて会ったころと変わらないあの声でわたしの名前を呼んだ。
　あなたから遊びだって言われても、気になることは気になるし、やりかけたままの気になる仕事もあった。
　家にいてあなたを待つなんて性格じゃないことぐらいわかってくれていると思っていた。
　別れるって話はあっという間に広がって、あなたのご両親が飛んできて、次にわざわざさん国からシュウ兄さんがやってきた。
　お義父様やお義母さまは息子が悪かったとはおっしゃったけど別れないでくれとか、思い直してくれなんて云う世間一般的な言葉は一言もおっしゃらなかった。
　ただ、あなたと別れてもわたしのことを娘として接したいとおっしゃてくれた。
　シュウ兄さんを見たときのあなたの表情は見物だった。
　普段は暴力に出ない兄さんがにっこり笑いながらあなたを殴ると、嬉しそうにわたしを抱きしめておめでとうと言ってくれたわ。
　それから、あなたの釈然としない表情。
　もうあれから大分たつのにすぐこの間あったことのように思える。
　それは、あの頃と同じような戦いが側にあるからなのかしら。
　あなたとわたしが出会ったあの頃のような。
　もうすぐ彼らが戻ってくる。
　わたしはその結果を受け止めなければ行けない。
　ここで見たことを…あなたにも話さないといけないから。
　他にも伝えなければいけない人が大勢いるから。
　

END