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嫌いな物があるとすればそれは夕焼け。
何もかも赤く染めて、空と荒野の境が消える。
その色を見ていると自分がどこにいるかわからなくなる。
「おら、チビ！ 帰るぞ！」
チビ。
確かにオレはこの隊ではチビだ。
だが、ガキのころならともかく１４にもなってこの呼ばれ方はいい迷惑だ。
返事もせずにいるとジャバローは腕を組んだままこちらにやってくる。
「チビ！」
「チビじゃない。アレスだ」
父の形見の剣を抜き払い、ジャバローの喉元に突きつける。
「……わかった、アレス。その物騒な物をどけてくれ」
降参とばかりに両手をあげている。
残照を刃に映しながら鞘に収める。
ガキのころは重く感じた剣も今は易々と扱える。
腕も背も随分と伸びた。
成長期であることを考えればまだでかくなる。
少なくとも父上ぐらいには…。
「しかし…」
ジャバローの手が左肩を叩こうとした瞬間、身体が勝手に動いた。
手を払いのけ、睨み付ける。
腕を掴んで捻りあげなかったのはジャバローの方がやや素早かったからだ。
「オレに触るな」
強く言うオレの言葉にジャバローは鼻白んだ様子だ。
「そいつはすまなかった。ま、とにかく閉門前に帰るぞ」
「ああ……」
オレたちは並んで歩き出す。
コイツは、傭兵仲間のうちではましな方だった。
汚い手を使うという奴もいるが、生き延びるための手段と思えばありふれたことだし、少なくとも、同じ隊にいる仲間には親切な方だった。
「アレス」
オレは顔を上げる。
「夕焼け、好きか？」
何を突然言い出すのか…。
問いかけようとするオレを制してジャバローが言葉をつぐ。
「お前。さっき熱心に夕焼けを見つめていただろう」
「………嫌いだから…」
夕焼けは燃える町を思い出させる。
もう戻れない場所。
人を殺すことになれたのに、殺された痛みは消えない。
奇妙な感覚だ。
「そうか…」
何か言いたそうな口振りだが、それを無視して足を進める。
黙々と歩いていると、やがて灯火を掲げるダーナの城壁が見えてきた。
「おい…アレス…」
足を止め、後から来る人を見る。
「明日からイザーク行きの商隊の警備だ。早く寝ろよ」
人には早く寝ろと言いながら自分はどこかに出かけるつもりらしい。
オレは息を付くとジャバローに向かって手を挙げる。
「あんたも早く寝ろよ」
「ああ」
そういって、オレたちは城壁の所で別れた。
END
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