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人の気配がして彼は身をこわばらせた。
「あれぇ…。人がいたんだ」
間延びした少女の声に彼は息をつくと緊張を解いて少女を見た。
「こんばんは。ティナ」
ティナは悪戯を見つけられた子どものような笑みを浮かべると城壁に飛び乗って腰を下ろす。
「あ…危ないですよ」
「大丈夫。こー見えてもあたし、とっても素早いんだから」
「はぁ…」
素早いのと大丈夫なのは一致しないような気がしたが、深く追求することは止めた。
なぜか、夜空を見上げるティナの表情が声をかけることをためらわさせる。
夜のせいだと自分に言い聞かせて、再びティナを見ると少女は故郷の歌を歌っていた。
意外だった。
声は高く澄み、夜空に吸い込まれて行く。
懐かしい故郷を目指す鳥の歌。
北と南を繋ぐターラの翼。
星の輝きは歌にあるとおり変わらない。
なのに、心が悲しかった。
「ティナ…」
振り向いたティナは笑顔だった。
「ああ、すっきりした」
両手を目一杯までのばすとひらりと城壁から降りた。
「早く…。早くみんなでお家に帰ろうね」
家へ帰ろう。
トラキアの大地に平和を取り戻して。
それが、皆の共通した願いだった。
そして、それが実現するためには今少し時間を要するのだった。
おわり
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