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「…してくれたら許してもいい」
言葉がよく聞き取れずジストは目の前の少女を見た。
「…マリカ？」
「なんでもない」
あからさまに目をそらすとそのまま顔を見ることなく踵を返す。
「おい！」
呼び止め話を聞こうとするが要領を得ない言葉をくり返すばかりだ。
何が言いたいのか。
わからないまま姿を消した。
× × ×
すっかり暮れた野営地でその人を見つけるのは難しいことではなかった。
賑やかな楽の音を探し、その中心で舞うその人を呼ぶ。
一曲終わったところで休息を告げ、そのまま真っ直ぐにジストの元へとやってくる。
「隊長が呼びに来るなんて珍しいわね」
ユアンが差し出した手拭いで汗を拭うと少し歩こうと促す。
人々を寄りつけさせない雰囲気で二人は暗がりへと進む。
「で、こんな時に会いに来るなんて、どんなお話？」
テティスの言葉に口を噤む。
「隊長らしくないわね」
「…うむ…。そのだな…。女には何をしてやれば喜ぶんだ？」
頬をしきりと書く大男にテティスは「あら」と口元を押さえる。
「なに？なんのお話かしら？」
がらりと口調を変えて、身を乗り出してくる。
いまさら先の言葉を否定できるはずもなく、ジストはマリカの話をする。
「あらあら。それをあたしに聞くの？」
「どういうことだ？」
「あたしとあの子は同じ傭兵隊に属する仲間ですけど、同時にライバルでもあるのよ」
「…どういうことだ？」
ふふふ。と読めない笑みでテティスは笑う。
「百戦錬磨のジスト隊長もこういう方面には疎いんですこと」
ひとしきり笑ってからもう一度ジストを見る。
未だにわからないと困り顔の男にため息を吐くと「恋」とだけつげる。
「あ゛？」
「まだわからない？あたしもマリカも隊長のことが好きなのよ」
からかうような口調にまさかと否定しかけた言葉をぐっと飲み込む。
マリカの言葉が本当に聞き取れなかったわけではない。
ただ、自分の耳を疑ったのだ。
「その様子だと何か心当たりがあったのかしら？顔が真っ赤よ」
顎に手をやったまま固まるジストに手を振る。
「ウブなふりなんてやめて」
「いや…だが…それにおまえは…」
「お気遣いは結構。男は他にもいくらでもいますから」
まったく、嫌になるわ。
妙にさばさばした声にも答えることが出来ない。
「早く行ってあの子の機嫌を直してきたらどう？」
× × ×
テティスに急かされ、マリカのいる天幕の前に立つ。
「マリカ、いるんだろう？」
入口から声をかけると相変わらずの不機嫌顔でマリカは出てきた。
「隊長どうした？急ぎの仕事か？」
むっとしたまま言われたジストは顎を撫でると少女へ腕を伸ばした。
一瞬で腰を捉えると黙って引き寄せ、荒々しく唇を重ねる。
硬直した身体から力が抜け、唇を離す。
「こうして欲しかったんじゃないのか？」
腕の中の少女は真っ赤になっている。
「…ずるい」
「？」
「隊長はいつもずるい。自分だけで決めて…いきなり…」
「マリカ？」
「キスより先にすることを忘れてる。キスだけならいらない」
真っ赤になりながらもはっきりした口調でマリカは睨み付けてくる。
「マリカ…あの…な…」
キスより先にすること？
「わからない？」
そう言って見上げてくる目つきはテティスそっくりだった。
女の目で見つめてくるマリカにどう告げるべきか…。
言葉は知っている。
だが、久しく使っていなかった言葉におかしいぐらいに戸惑っている。
商売女相手ならいくらでも言える言葉を。
「マリカ」
耳元に口づけるように囁いた。
END
200411122118
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