|
月の美しい夜だった。
優しく輝く光を見つめ、エリンシアは目を閉じる。
とてもながい道程だった。
本来は王位につくべきではない自分。
王女として生まれながら、一人の少女としてひっそりと暮らしてきた日々。
それが変わったあの日、エリンシアを優しく育んでくれていたすべてが崩壊した。
「眠れないのですか？」
その声にエリンシアは振り返った。
「ルキノ…」
愛用の剣だけを手にした姿に、エリンシアはほっとして口元に微笑みを浮かべる。
「月を見てたの」
ルキノはエリンシアの傍らに立つと少女のいった月を見上げる。
満ち行く月は穏やかな光を放っている。
「子どもの頃もよくこんな風にしていましたね」
公式の場所に出すことの叶わない隠し姫。
知っているのはごくわずかな者だけであったために両親とは離れていることが多く、 寂しい夜、少女の話し相手は物言わぬ月だった。
「よいのですか？」
「ええ。……だって、ここまできたんですもの」
国は取り返した。その玉座に座れる人物はエリンシアしかいない。
「あの方のことは？」
エリンシアは首を振る。
今は国のことで手一杯だからと切なく目を細める。
「お強くなられましたね」
「いいえ。私はわがままなだけよ。あの方に認めてもらえる王になりたいの」
いまはまだ、出来ることは限られているけど。あの人に報いるには金だけではない何かが必要だろう。
だから、エリンシアは王になる。
王として素晴らしい国を作ろう。
誇れる国を。
月に願いをかけるようにエリンシアは再び空を見上げた。
おしまい
|