戦場では一瞬の気の緩みが命取りになる。
　目の前で暗黒魔道士の杖が光った。
「やばい！」
　それが誰の声であったのかは思い出せない。ただ次の瞬間には猛烈な眠気がアレスを襲った。
　
　
「なあに？アレスってば眠り姫なの？」
「男に姫はないだろう」
「そうよね」
　外から暢気な会話が聞こえて来る。
　いつまでも目を醒まさないアレスの傍らでナンナは頬杖をついた。
「レストはしたんだが」
　セティは何度も謝ってくれた。
　はじめは呪文が解けてないんじゃないかとかなにか悪い病気なのではと疑ったがどうも違うらしい。
　慌てる自分たちを心配してやってきたレイリアはアレスを見るなり笑い出した。
「これ、爆睡してるだけなんじゃ？」
　度重なる戦闘で蓄積された疲労が關を切って溢れ出したらしい。
「ライブは楽にはしてくれるけど、疲れが無くなる訳じゃないし」
　ぐっすり寝る充実感には敵わない。
　スリープが引き金となって爆睡しているというのだ。
「まったく。心配させないでよね」
　額を指でつつく。
　規則正しい寝息が憎らしい。
「早く目を醒ましなさい。みんな心配してるんだから」
　零れ落ちる髪をかきあげアレスの唇に自らのそれを寄せる。
「一人だけずるいんだから」
　もう一度キスをしてナンナは立ち上がるとは目を伏せたまま部屋を出た。

おわり
200405110227