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出立の準備は慌ただしく行われていた。
「セルフィナ、エスリン様を手伝うんだ」
「はい、お父さま」
父に命じられるままにセルフィナはエスリンの荷を整える。
手伝うと言うより邪魔になるのではと思われたが、エスリンは少女の手伝いをことのほか喜んでくれた。
「エスリンさま。早く戻ってきて下さいね」
鐙を調節しながら話しかけると、エスリンは笑みを浮かべる。
「もちろんよ。すぐに帰ってくるから、それまでアルテナをお願いね」
生後間もない王女のことを言われ、セルフィナは素直に頷いた。
「それから…」
エスリンは少女の耳元に顔を近づけるとそっと囁いた。
「フィンをしばらく借りるわね」
その名前を出されてセルフィナは耳元を押さえる。
自分の顔が赤くなるのがわかる。
「エ…エスリンさま…」
「ふふふ。気づいてないと思った？ あなたの視線の先ぐらいお見通しよ」
「そんなぁ…。べ、別にあの方を…それに…」
「そうよね。グレイドは明らかにあなたのことが好きみたいだし、二人は親友だし…難しいわよねぇ。それに…」
覚悟を決めて次の言葉を待つ。
もはや、何を言われても驚くまいと心に決める。
「それに、フィンったらまったくの朴念仁なんですもの。いつ女の子の向けている視線に気がつくことかしら」
声を上げて笑うエスリンを少し離れて話し合っていたキュアンとフィンが不思議そうに見る。
「エスリン、どうしたんだい？」
馬を寄せてくるキュアンにエスリンは「アルテナのことをお願いしていたのよ」と嘯く。
その言葉を受けたキュアンは鷹揚に頷くとセルフィナを見た。
「セルフィナ、アルテナを頼む」
真面目腐って頭を下げるキュアンにセルフィナは笑顔で請け負った。
「アルテナさまが寂しがらないよう、早くお帰り下さい」
「もちろんだ。義兄の無事を確認したらすぐに戻ってくる」
キュアンの決意のこもった眼差しにセルフィナはただ頷いた。
そして全ての兵の準備が整うとキュアン率いるレンスター軍は隊列を整えて城を後にした。
遠くなる騎影にセルフィナは無事を祈る。
「心配かい？」
低いが優しい声がしてセルフィナは振り返る。
「もちろんです。ご無事でお帰りになるとは思いますが、心配しないわけには…」
「大丈夫さ。みんな無事帰ってくる」
肩を叩かれてセルフィナはその優しさにぐっと涙をこらえる。
「グレイドさまも親友のことが心配でしょう」
「ああ…。あいつはドジだからなぁ…。でも、同じぐらい羨ましいかな」
フィンは実戦を経て何倍も成長してくるだろう。
それが、グレイドにはわかっていた。
「グレイドさま？」
「…なにかな？」
「……二人で、お祈りしましょう。皆が無事帰ってくることを」
グレイドは少し驚いてから、それから力強く頷いた。
おわり
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