のどがからからだった。
　どうしようもない渇きと絶え間ない気分の悪さにアレスは目を覚ました。
　起きあがろうとしたが力が入らない。
　下手に動くこともできない。
「あら、気がついたのね」
　ナンナは素早く寝台に腰掛けるとアレスを抱き起こし、水の注がれたグラスを差し出した。
　手を上げるのも億劫だという表情に気がついたナンナはアレスの唇にグラスの端をあて上手に飲ましてくれる。
「どう？少しは楽になって？」
　水が喉を滑りおち、不快感に満ちた心に潤いをもたらしてくれる。
「ああ…すまない」
　感謝の表情にナンナは嬉しそうに笑い肩を竦める。
「本当に、よかった」
「あ…ああ……」
　もう一杯水が欲しいと告げるとすぐさま水がなみなみと注がれたグラスが差し出される。
　それを飲み干し、アレスはナンナを見た。
「セリスはどうしている」
「セリスさま？朝から元気に仕事してるけど」
　返ってきた言葉にアレスは舌打ちした。
「なんでヤツは元気なんだ？！」
「やっぱり耐久力の差じゃないの？きっとあなたより強いのねぇ」
「うぐ……」
　何か痛いところを衝かれたらしく、拳を握り締めたまま黙ってしまう。
「俺は…アイツに負けたのか？」
　俯いたまま絞り出された声にナンナは笑みを浮かべる。
「そうでしょうね」
「……だからなのか？こうなるのがわかっていておまえはアイツに賭けたのか？」
「何のことかしら」
　果てしなく、白々しいまでのナンナの笑みにアレスは痛みはじめた頭を押さえる。
「ナンナ……」
「アレスの方が悪いのよ。何も考えずにセリスさまに挑むから」
「何も…て、俺は、おまえに」
「恰好いいとこ見せようとしたって言うんでしょ。ばかばかしい。事前に相手のことを知りもしないで勝負を挑んだあなたが馬鹿なのよ。でも、そのお陰で稼がせて貰ったわ」
　指でアレスの額をはじく。
「セリスさまって、ティルナノグでは名の知れた酒豪だったんですって。笊っていうか、むしろ枠？そんな人に勝てると思って？その証拠に今だってあなたは二日酔いで倒れてるのにセリスさまは元気に執務中よ」
「……………」
　ナンナは底意地の悪そうな表情を浮かべている。
「わかった…。俺が悪かった……」
　ろくでもない日だ。
　
　ぶつぶつと悪態を吐くアレスの姿にナンナは堪えきれず吹き出す。
「ねぇ、アレス」
　もう一度ナンナは呼びかける。
　不機嫌の見本のような顔をしたアレスが妙に可愛らしかった。
「本当に、悪いことばかり？」

END