「明日は雨ですって」
　ナンナの言葉にアレスは顔をしかめた。
「なぁに？その不機嫌な顔は？」
　近づいて顔を覗き込んだナンナから目をそらし「古傷が痛むんだ」とだけ告げる。
　アレスの身体のあちこちに傷跡が残っていることはナンナも知っていた。
　殆ど目立たない小さなものから、生きていることが不思議に思えるぐらいの大きなものまで。
　傭兵ならば勲章だと嘯いてみせることもあっただろうが、今となっては勲章でもなんでもない。
「痛み止めでも煎じましょうか？」
　薬草の知識があるナンナとしては当然の返答だったのかそれが気に入らなかったのかアレスは眉根を寄せると、突然声を張り上げた。
「普通、ここは『あたしが慰めてあげましょうか？』とか言うんじゃないのか！」
　拳を握りしめ力説する人をナンナは冷ややかな目で見る。
「うるさいわね。どこの『普通』よ！なんであたしがなぐさめてやんなきゃいけないのよ。傷が痛むのはあなたがいつも守ることを考えずに攻めてばかりいるからでしょ。あんまり騒ぐとスリープかけるわよ」
　今にも実力行使に出かねないその形相にアレスは慌てて降参の意を示す。
「わかった！オレが悪かった！！」
　ならよろしいと腰に手を当てて立つナンナの姿にアレスは切ない息をもらす。
「わかったならいいのよ。べつに」
　そしてナンナは口元に指を当てて提案する。
「明日は二人でゆっくり読書でもしましょう。なんせ読まないといけない書類が溜まってるんですもの」

END