「………………」
自分の剣を見つめたままワユは眉間にしわを寄せていた。
「どうしたのワユさん。なにか悪いモノでも食べたの？」
その言葉にますます表情が険しくなる。
「なんであたしが悩んでいるとみんな『悪いもの食べたってか？』って聞いてくるわけ？」
「みんなって？」
「大将もそうだったし、オスカーさんも、ボーレも、ヨファも…。あ、あとティアマトさんにも心配された」
挙げられた名前がみな古くからの仲間の名前でキルロイは思わず吹き出す。
「キルロイさん。感じ悪い」
「ごめん」
「そうだよ。失礼だよ。変なもの食べてお腹壊すなんてイレースちゃんじゃないんだから」
いつもお腹空いたと呟いている少女が拾い食いをしてお腹を壊しているところを見たことがないことにキルロイは気がつく。
「それよりも…悩みごとあるんだ」
最初の言葉を思い出し尋ねるとワユは不機嫌そうに口を曲げる。
どうも文句を言っているうちに忘れていたようだが、改めて指摘され思い出したらしい。
「え…と。僕で良かったら相談に乗るけど」
「ほんと！」
両手を組み合わせて目を輝かせたワユだが、次の瞬間「でも」と言葉を切った。
「僕じゃなにか都合の悪いことなのかな？」
「…………………」
しばらく口を閉じて明後日の方向を見ていたワユはおもむろにキルロイの上着を掴んだ。
「脱いで」
「え……」
「いいから脱いで」
「…ワユ…さん」
「だって、相談に乗ってくれるんでしょ」
凄味をきかせて言われたキルロイは顔を引きつらせる。
「え…っとその、ここで？」
「ここで」
袷に手をのばしているワユは真剣そのものだ。
「あ…え…」
その表情に押されてキルロイは目を泳がせる。
まわりには誰もいない。
人の気配もない。
「さ…さすがにここではちょっと」
苦し紛れにそう答えるとワユはあっさりと手を放した。
「じゃぁ、あたしの部屋にする？キルロイさんの部屋にする？」
これはどういう意味なのだろうか？
キルロイは咳払いを一つするとワユさんの都合の良い方でと告げた。
ワユに引きずられるような形で自分に割り当てられた部屋に落ち着いたキルロイは、香草茶を手渡しながら詳しく説明して欲しいと頼んだ。
ゆっくりとお茶を飲んで落ち着いたのかワユは浴場であったことを話し始めた。
「うわ〜〜〜。もしかしなくてもすっごい筋肉じゃない！」
浴場に響き渡る声にステラは曖昧な笑みを浮かべる。
「ほらほら、みてよ。イレースちゃん。ステラさんの腕の筋肉凄いんだよ」
腕だけじゃなくて背中もすごい筋肉がついていると撫で回しては目を輝かせている。
名前を呼ばれたイレースはお湯の中を進んでくるとステラの腕をつつく。
「お肉は、柔らかい方が好きです」
真面目な顔で言われてワユは頬を引きつらせる。
「………イレースちゃん、お腹空いていてもステラさんは食べちゃダメだよ」
「人間は食べません。骨とか筋とか食べづらいし。とくに男の人は…」
冗談とも本気とも取れない言葉に湯を注ぐ音だけが響いた。
「というわけでね。男性の筋肉をゆっくり見たいと思って」
ようやく話が見えてきたキルロイは安堵の息を吐いた。
「で…どうして僕…なんですか？」
「だって、大将もボーレも剥き出しで『筋肉』って感じの筋肉じゃない。甲冑つけている人は大抵そうだよね。そうすると、露出の少ない人のはどうなってるのかなぁって気になって」
考え込んだあげくがさっきのアレだろ言うことか。
「セネリオに声を掛けたりはしなかったんですか？」
「そ…それは怖すぎて」
昔から、アイクに対しては愛想は良いが、それ以外にはからっきしなのだ。
さすがのワユと言えども遠慮したらしい。
「………上着だけで良いですか？」
ワユは嬉しそうに頷いた。
「キルロイ。いいか？」
ノックに続いて聞こえてきた声にキルロイは構いませんと答える。
「………さっき、この部屋から出ていったのって……まさか……」
「ボーレ…僕は…いますっごく疲れているんだけど」
最終的に上着だけでなく肌着まで脱がされた。
肌着の上から触ったとき、思いのほか硬い筋肉があったことにワユが驚いた結果なんだが。
魔道士や神官は肉体労働はしないと思われているのだが、この杖を振るうという行動は想像以上に力を使うのだ。
それを納得して貰い、ようやく解放された。
「……まさか？」
「いや、その、えっと、だな…これは…」
「何もなかったよ」
勘違いしている内容に気がついてキルロイは先手を打つ。
「彼女に頼まれて、悩みごとの相談に乗っていただけだよ」
「本当に？」
「本当に」
彼女の話の内容から行くと臑まで捲れと言われるのではないかとドキドキしていたがそう言ったことはなかった。
「ワユさん相手だとね…色っぽい話にはならないんだよね」
自覚が有るのか無いのか、キルロイにも分からなかった。
ＥＮＤ
200603120343
|