ときどき、何かを思い出すことがある。
何だかわからないけど、無性に恋しく感じる人の温もり。
抱きしめてくれたのは誰だろうか？
抱きしめて、名前を呼んでくれた人。
軽やかな笑い声と低く沈む声。
どちらも懐かしくて、切なくて…。
　
二人とも顔はあたし似だけど、性格はちっとも違うのね。
ルゥはおっとりさんだけど意外と抜け目無いし、レイの無口でむすっとしていて寂しがりやなのは−−−−譲りなんだから。
　
そんな声を聞いたことがある。
あれは誰の声だろうか？
　
母親の記憶？
そんなはずはない。
母は、物心つく前にいなくなっていた。
気がついたときには二人そろって修道院にいたのだ。
きっと、これは院長先生の記憶だろう。
だけど、もしそうならば…。
　
「レーイ」
背後から抱き付かれてレイは面倒そうに兄を見た。
「いきなり飛びつくなよ…」
「予告したらレイは逃げるじゃないか」
「当然だろう」
その言葉にルゥは息をつくともう一度レイを抱きしめる。
「だから…やめろよ」
「いいじゃないか。たまには。なんとなく、抱きしめていると気持ちいいんだもん」
仕方なくそのままでいる。
他の人はともかく、ルゥに抱きしめられるのは嫌いじゃない。
子どもの頃、雷に怯えて抱きしめあったときもある。
そんなときに感じたのと同じ安堵感が広がる。
「あのね、レイ。僕たちのお母さんってどんな風に僕たちのこと抱きしめていたのかなぁ？」
「……なんだよ、突然」
「さっきね、ヒュウさんがね、お父さんとお母さんの話をしてくれたんだ。だから…」
「………きっと、ルゥみたいに甘えん坊の母親だったんだよ。だから、お前はこんな風に抱き付くのが好きなんだろう」
　
顔も覚えてないけど、温もりだけは覚えている。
抱きしめられたときの温かさと心地の良さを覚えてる。
誰よりも、優しく愛しそうに呼んでくれたその記憶を。

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