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マンスター城は解放された。
地下に置かれた神殿も破壊され、人々は暗黒教団のくびきから解放された。
少し前にコノートも解放され、レンスター、アルスターと共に北トラキア四王国のすべてがフリージの、そして暗黒教団の下から解放されたことになる。
これまでの苦しみ・哀しみを忘れるように人々はリーフとセリスの偉業を讃えた。
そしてリーフの軍に従ってきた兵士たちはお互いの苦労をねぎらった。
誰よりも喜んだのはかつてのレンスター王国の騎士たちであった。
グレイドとフィンは厳しい顔をしていたが、若い騎士たちは城下の人々の差し入れる酒に酔った。
量も多くない、質だってかつて生産されていたものとは比べものにならないほど落ちている。
しかし、思いのこもった酒は心を温かく抱き込んでくれる。
「呑んでるかぁ〜」
真っ赤な顔をして近づいてくる戦友の姿にケインは苦笑した。
「飲み過ぎだぞロベルト。顔が真っ赤じゃないか…」
「いいじゃないかぁ〜。お祝いだぞ〜。楽しく呑むんだ〜」
酒瓶片手にふらふらと歩いてくるとケインの肩を抱いてロベルトは豪快に笑う。
「誰だよ…おこちゃまに酒を飲ませた奴は………」
「誰がおこちゃまだって〜？ ケイン〜、今日はお祝いなんだぞ〜」
「ああ…、そうだな…」
ロベルトから酒瓶を取り上げるとケインは一気にあおった。
◆◇◆
「逃げましょう。ケイン様」
従者の言葉にケインは顔を上げた。
「もうすぐお城は落ちます。早く逃げましょう…」
この先にあったはずの城は赤く燃え上がっている。
「かあ…」
母さんは…と言いかけてケインは止めた。
生きているとは思えなかった。
母はレンスターの騎士として王城を守るために行ったのだ。
それも何日も前だ。
父はそれよりも前にトラキア大河の戦いで戦死していた。
よけい母はレンスターを守ろうとしたのだ。
「わかった。逃げよう」
そう云ってケインは城に背を向ける。
まだ幼年学校に入ったばかりの自分に何が出来るというのだ…。
振り返ってはいけない…。
今は振り返るべきではない…。
悔しさをすべて圧し殺してケインは自分の荷物を手にする。
「いつか…必ず帰ってくるから…」
その呟きは誰にも聞こえてはいなかった。
だが、声にしたその音はケインの心に強く刻み込まれた。
そして……。
◇◆◇
今やレンスターだけでなくマンスターまでも解放した。
北トラキアのすべてが再びこの手に戻ってきたのだ。
「おお、良い呑みっぷりじゃん」
アルバやカリオンまで近くに来て笑っている。
「ばかやろー…。マンスターの解放で喜んでんじゃないぞ！次はトラキアだ。俺たちの手でこのトラキア大陸を一つにするんだ！」
ロベルトの首根っこを押さえ込んでケインは笑った。
「だろう？」
「ああ…」
「…だな」
「痛いよ…ケイン…痛いってば…」
レンスターの若い騎士たちは互いを見て声を出して笑った。
そうだ。
トラキアを一つにするため。
そして子供の頃に聞いた緑あふれたノヴァとダインの夢を叶えるために…。
終わり
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