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「あなたみたいに無神経な人は大っ嫌いよ！」
「こっちこそお前みたいな女は願い下げだ」
天幕から罵りあいが聞こえてくる。
日常となった二人のケンカを耳にしながらデルムッドは火にかけた薬缶からコーヒーを入れる。
「君も飲むかい？」
「頂きます」
とトリスタンは自らのカップを出すと主君の入れるコーヒーを飲んだ。
「相変わらず派手ですね」
「まぁ、この七日で七回だからね。そろそろみんなも慣れたんじゃないかな」
「確かに」
苦笑しながら二人の多彩な罵詈雑言に耳を傾ける。
「アレスさまが口が悪いのは理解できますが、ナンナさまも…」
「上品とは言えないよなぁ。嫁の貰い手が無くなりそうだ」
アレスがいるのをわかった上でデルムッドはそう告げる。
「こういうケンカを聞いているとよっぽどラクチェの方が上品だった気がするよ」
「……エーディンさまが厳しかったですからね」
ティルナノグの子どもたち言葉遣いにはいつもエーディンが目を光らせていた。
エーディンだけではない。
オイフェも言葉遣いには厳しかった。
もちろん彼だって悪態をつくときにはとんでもない言葉を吐くこともあったが、日常会話は正しい発音、正しい文法をと言われたものだ。
イザーク人の子どもと遊ぶときには現地の言葉や訛りも使ったが、大人たちのいる場所ではグランベルの貴族階級の言葉が使われていた。
「あらあら、また痴話喧嘩してるの？」
軽い足どりで現れた恋人にデルムッドはコーヒーを入れる。
「グランベルを出て七日もたつのに相変わらずよね。あの二人。いつまでやるつもりなんだか…」
溜息をついてレイリアはトリスタンの脇に腰を下ろす。
「今日のはそろそろおさまるんじゃないかな？」
楽しそうにデルムッドが告げる。
「今日のは…ですか」
顔をしかめるトリスタンを見て女性陣は吹き出す。
「あれって、二人にとっては日常のちょっとした儀式みたいな物なのよ」
恋人の皺の寄った眉間をつつきながらレイリアは微笑みかける。
「そういうものですか？お嬢さん方？」
「そういうものよ。なんなら真似してみる？」
レイリアの言葉にトリスタンは両手をあげて降参の意志を示す。
「二人の熱にあてられないうちに僕たちも寝た方が良さそうだ」
「そうしますか」
それぞれに恋人の腕を取りながら自分たちの天幕に向かう。
あの二人もそろそろ大人しくなるだろうと思われた次の瞬間。
「バカ！」
というナンナの大きな声に恋人たちはお互いの顔を見合わせた。
「まだまだ今夜は長そうだ」
END
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