強い風に向かって両手を突き出す。
　この高い山の上はシレジアで最も強い風を感じることが出来る場所なのだ。
　確認したわけではないが、多分そうだと彼の中の風が告げていた。
　結んでいた髪を解き、風になびかせる。
　銀の糸が後方へと流されていくのがわかる。
　自分の中の風と、自分をとりまく風をまとめるように呪文を唱える。
　そのための魔道書はいらない。
　これは魔道書にはない新しい呪文なのだから。
　風を依りあわせ、新しい結び目を築き、そして名付ける。
　名付けられた呪文を詠唱する言葉と合わせ、魔道書に落ちつかせる。
　それだけでいい。
　そうして、新しい魔法が産まれる。
　新しく作り出される風を思うと笑みがこぼれてくる。
　媒介とする魔道書と共に胸に抱え込む。
「どうだいフォルセティ。この魔道書になんて名付けようか？」
　自分の、そして自分の先祖が分身とした緑に輝く魔道書に話しかける。
　答えがあるわけではない。
　なのに語りかけずにはいられない。
　姉が見たらきっと顔をしかめるだろう。
　彼女にとって分身とも云える力を持った魔道書は彼女が最も嫌う魔道書でもあるのだから。
「そうだなぁ…。ウィンド、エルウィンド、トルネード、ブリザード……あとはセティ叔父さんが改良したグラフカリバー……他に何かあったかなぁ？」
　他との違いをつけるために呪文の名前には凝らなければいけない。
「そうだ…これはどうだろう『エクスカリバー』」
　風が強く吹いた。
　それは同意のようにも感じた。
「よし、この魔道書はエクスカリバーだ」
　そう宣言して呪文の中にエクスカリバーの言葉を織り込んだ。
　
　
　生み出された新しい魔道書はエクスカリバーと名付けられた。
　が、詠唱する呪文の煩雑さと、その音の複雑さから殆ど使われることが無かったといわれている。

　END