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うちのお父さん
うちのお父さんは、ずぼらです。
外では「かっこいいお父さん」だの「ヤンエグ」だのと言われていますが、休みになるとテレビを見ながらゴロゴロしています。
この間も、テレビのリモコンを探すのが面倒だからと布団叩きを足の指に挟んでチャンネルボタンを押していたところお母さんから殴られていました。
× × ×
子ども部屋の掃除は極力しないことにしているのだが、このようなものがゴロゴロしている…。
（昔はあれでも格好良かったのよ…）
床に落ちていた書きかけの作文にナンナはため息を吐いた。
まだ子どもとはいえこの観察力は恐ろしい。
しかも、これを学校に提出されていたらなおさら恐ろしい…。
「………そうだ。こういうときは情報通に」
ナンナは電話の子機を手に取ると窓際のソファに陣取り友人の番号を押した。
『えー、なに？お父さんについての作文の提出日？』
「そうなのよ。マイアの部屋でね、書きかけの作文を見つけたんだけど、提出日がいつなのか気になってね」
『ちょっとまてね。今思い出すから』
うーんとひとしきりうなり声がしたかと思うとぽんと手を叩き合わせる音が聞こえた。
『先週よ。うちのバカ息子も苦しんでいたもの。「お父さんは誉めるところがない」って』
「…パティ…。アートくんの作文は読んだの？」
『読んだわよ。だって、レスターったらつきっきりであれは書くなこれは書くなって大変だったんですもの。やーよね。似たもの親子なのに』
けらけらという笑い声。
『その点マイアちゃんなら平気でしょ。成績も優秀だし、猫被るのも上手だし。母親に似たのねぇ』
「ありがとう、パティ。あたしも信じてるわ」
ひとまずわかったわと答えながらナンナは頭を抱える。
マイアの作文には普段のアレスのイメージを覆すに十分なネタが転がっていた。
（あたしが出かけている間は四日間も同じネクタイをしていたですって！
何考えてるのよあのバカ）
身だしなみに気をつけているのは大ウソ。
アレスがずぼらなことはナンナは幼い頃からよく知っていた。
剣道の成績が優秀で、ある高校を薦められたのだが「制服がないところは面倒」の一言で断ったのを憶えている。
剣道をはじめたのだって、剣道の道具は洗濯しなくて良いからと言って親戚一同呆れたのだ。
だったら柔道着だって洗濯はしないと伯父が言ったら「あれはがに股になるから嫌だ」と返したのだ。
「そうよね。なにを今更よね。アレスのあのずぼらさを知っていてあたしは結婚したんですもの。ガキの頃から見慣れてきたんじゃない。女と遊びに行くときもコーディネイトをあたしにやらせていたんですもの。あの男は！」
思い出すべきではなかった過去にナンナは握り拳を作った。
× × ×
とある日曜日の夕方。
「ママー。いらないプリントって廃品回収で良いの？」
部屋の掃除をしたマイアが一抱えほどある紙の束を持ってきた。
「そうね。明日は回収日だから、あとでパパに縛って貰って」
「はーい」
がさごそという音がしてマイアが紙の束をしまっているのがわかる。
「アレイもヴェルも捨てる物があったらマイアと一緒にパパに縛って貰いなさい」
「ないからいい」
とはアレイアス。
「ヴェルは？」
「ぼくもないよ。学校の焼却炉で燃やして来ちゃった」
「…ヴェル……。先生からの連絡と成績表は燃やしちゃダメよ」
「なんで？お兄ちゃんも燃やしてるよ」
首を傾げ、兄を見る末の息子の姿にナンナは上の息子を睨み付ける。
「アレイ！」
「父さんが言ったんだよ。いらない物は燃やした方がいいって」
「なんですって！アレス！あなた…息子たちにどういう教育しているの！」
昼寝が夕寝に突入した父の寝室に母が怒鳴り込んでいくのを子どもたちは見つめる。
「…ママも抜けてるわよね。なんで気づかないのかしら？お兄ちゃんとヴェルのもって帰ってくるプリントが少ないって…」
「抜けてなきゃ父さんと結婚なんかしてないと思うぞ」
「そうよね。似たもの夫婦よね…。気をつけないと…」
重いため息を吐いたマイアは押入から荷造りヒモを取り出すと黙々と廃品回収用の紙の束をまとめにかかる。
「そういえばおまえ…この間の作文どうした？」
「出したわよ」
「あれで？」
「まさか。あんなんで出したらうちのイメージダウンよ。あれは毒吐き用。悪いところを全部書き出して、注意しないとうっかり書いちゃうでしょ」
END
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