休日の昼下がり、場所は南楽器。
　 小さなテレビの前に嬉しそうに声を上げる人物が二人。
「これで９歳ですか。うわっ〜可愛いなぁ」
「だろう。生意気ではあったが可愛いい盛りでなぁ」
　 二人は笑いながら一人黙々と棚の整理を続ける少年を見る。
「こっちもいいぞ」
『梁10才』と書かれたビデオが出てくる。
「あ、少し背が伸びてる。でもやっぱ可愛い♪」
「………」
　 自分の幼い頃のビデオを見て喜ばれるのは嬉しいような気もしないでもないが……一緒に見る気にだけはならない。
「この可愛い少年がああなるとはなぁ」
「ですねぇ」
　 背も高くて肩幅も広い。サッカーをしていても競り負けることはない。
　 一言でいえば、ごっつい。
　 そんな人の指先から繊細なピアノの音を紡ぐなんて想像が出来ない。
「このころの演奏…生で聞きたかったなぁ」
　 テレビの中には満面の笑みを浮かべる少年。
「香穂。おまえ……オレの演奏聞いたことあるはずだぞ」
　 作業の手を休めビデオを見ている香穂子の隣に立つ。
「エリーゼ以外に？」
「そ。卒業式に弾いたから」
　 卒業式？
「え…え…ええ！」

「おまえ、可愛かったなぁ」
「まさか卒業式のビデオまであるとは思わなかった」
　 小学生の自分が映っているとは香穂子も考えつかなかった。
　 実は小学校の卒業式の記憶はあまりなかったから余計に驚いてしまう。
　 土浦も乗り気ではなかったのでそこそこの出来だと言うが覚えてないことが残念でならない…。
「まぁ…希望があればいくらでも弾いてやるから」
「うん」

おしまい
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