いつにもまして不機嫌顔の月森を見つけ香穂子は首を傾げる。
「ああ…座るかい？」
　空いた席は他にもあるのだが月森の好意に感謝して向かいに腰を下ろす。
「………」
　話し掛けるのも気まずいような空気に口を開いたのは月森だった。
「あそこの彼は…」
　睨んだ方を見ると音楽科の一年生がヨーグルトを食べている。
「無糖ヨーグルトに砂糖をいれて食べているんだ…」
　許せない。
　珍しい呟きにテーブルの上を見るといつもはあるヨーグルトがない。
「月森くん…ヨーグルトたべる？」
「いや…オレは…」
　念のために無糖ヨーグルトを選んでおいたのだが。
　苦しそうに目を反らす姿につい吹き出しそうになる。
「遠慮しないで。わたしはまだ予備があるから」
「？」
「天羽さんがね、報道部の冷蔵庫を貸してくれたの。この間スーパーで安く買えたからまとめて入れてあるんだ」
　本来はフィルムの保管用なのだが食べ物もそれなりに入っている。
　月森は香穂子の手にしたヨーグルトから再び目を反らす。
「気持ちだけ受け取っておく。オレは君と違って天羽さんには借りを作りたくないからな」
「借りだなんて。月森くんは大袈裟なんだから」
　大真面目で話す人に笑いかけると首が振られる。
「君は気がついてないのか…彼女のハイエナのような嗅覚を。少しでも弱みを握られたら今後どうなることか…」
　ああ……。
　香穂子にはただフレンドリーな天羽だが月森にはそんな風に見えているのか…。
「だいじょう…ぶだよ……。それにこれはわたしが月森くんにあげたいんだし遠慮しないで」

「あれ？香穂。またヨーグルト食べるの？」
　昼休みになった直後に取りに来たはずなのに。
「え…あ、あれは月森くんに………」
　そう口にしてから香穂子ははたと気がつく。
　空気が変わった。
　天羽の目がキラキラと輝いているのだ。
「月森くんがどうしたの？」
　かぶりつき。
「え…別に。そ…それにしても…月森くんの話題には反応早いよね」
「だって面白いじゃない。突き甲斐もあるし」
　ああ…。
　すごく納得して同意してしまいそうな自分に香穂子は、天羽から目を反らすと不幸な月森を思って心の中で謝った。

おしまい
200705300855