「ねぇ、つきもりくん」
　呼び掛けると麗しい笑顔が返ってくる。
　愛しい人に向けられる穏やかな眼差し。
「どうした香穂子？」
　優しい声で名を呼ばれじっと相手の目を見る。
「つきもりくんは…あたしのこと『香穂子』って呼ぶのにあたしが『つきもりくん』だとよそよそしい気がするの。だからね、なんて呼べばいいかなぁ？」
　今気がついた。
　そんな表情を無視して明後日のほうを見ながら言葉を継ぐ。
「それでね『れんさん』だとすごくヘンだし、『れんくん』もなんか違うと思うの」
　呼び捨てでも構わない。
　そう告げようとした瞬間、香穂子が瞳を輝かせながら口を開いた。
「でね、『れんちゃん』はイメージ悪いから『れんれん』にしようと思うんだけどどうかなぁ？」

「月森。おまえの彼女来てるぞ」
　友人の言葉に席を立つ。
「すまない」
「いや。でもさ、日野さんって凄いよ」
「………」
　月森は答えない。
　ただ、月森の姿を見つけた香穂子が大きく手を振る。
「れんれ〜ん♪」

おしまい
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