「なんなんですか、あの小日向って転校生は！」
ハルは不満を大地にぶつける。
「ハル……彼女は律の切り札なんだよ。怒るなって」
大地は楽譜を捜すハルを見ながら机に後ろ手をついてへらへらと笑っている。
「どんな人だか知りませんが、なんであなたが彼女たちと組むんですか？」
語気を荒くする少年の背後に立って耳元に囁く。
「ヤキモチ？」
甘い声に「違います」と即答する。
「別に…あなたが誰を好きになろうと僕には…」
「嘘つき」
背後から抱きしめられる。
「やめてください。誰か来たらどうするんですか？」
「どうかするの？」
抱きしめた手が服の上から胸元を探る。
「やめ……」
身体を離そうとするが体格差が出てしまう。
「大地先…ぱ」
身体を捻って無理矢理腕から逃れようとしたが、逆に身体を捕らえられ、正面からキスを繰り返すはめになる。
「誰か来たらどうするんですか？」
「恋人宣言すればいいんじゃない？」
「恋っ……！」
「オレはゲイだってオープンにしてるから問題ないんだけどなぁ。だいたい、オレたちはいつから付き合ってるんだっけ？」
「………３年前からです」
「この３年間。オレはいつだってお前が好きだったんだけどな」
キスを繰り返す。
観念してしばらくその行為に耽ってから、ハルは大地の胸に顔を埋める。
「僕だって……あなたが好きなんだ。生物学的におかしいし、家の面子を考えれば……誰にも言えないけど…ずっと……だから」
大地の大きな手が宥めるように頭を撫でる。
「ハル。あんま可愛いこと言わないでくれよ。朝まで鳴かしたくなる」
「大地先輩！」
妖しく笑う大地に慌てる。
この人の場合、しゃれではすまない。
「安心して。彼女は律の恋人で、オレの恋人はハルなんだから。浮気なんかしないよ」
「………恥ずかしい人ですね」
「でもこの言葉がほしかったんだろう」
否定はしない。
「仲直りしよう」
「ケンカなんかしてませんよ」
「ならもっと仲良くなろう」
「…………」
大地はハルを誘う。
見呆けてしまうよいな魅惑の表情と声。
まだ学校にいることでハルは必死に自分にブレーキをかける。
「週末なら……平気です」
「なら、週末はオレの部屋でいいかな。たっぷり仲良くしよう」
再び耳元に囁かれてハルは深呼吸する。
「まったく……」
次の言葉を探していると大地が嬉しそうにハルを見ている。
その姿にハルは思う。
あなたには敵わない。
でも僕にだってあなたは敵わないんだ。
おしまい
201005200013 |
