待ち合わせは昼食後の森の広場。
　一緒に練習しないかという千秋からのメールにそう返信したが、当の練習相手はまだ来ない。
　時は金なりの精神で生きている割には、遅刻するんだな…なんて思いながら楽譜をさっとさらう。
　まぁ千秋もソロの決勝を終えて取材とか神戸に戻る準備とか色々忙しいのだろうから。

　物憂げなメロディが耳に届き、千秋は足を早める。
　蓬生のつまらん茶々に付き合っていたら遅くなってしまった。
　まったくなんて失態だ。
「かなで」
　弓を止めたのを見計らって声をかけると、かなでは「遅いですよ」と怒ったフリをする。
「悪かったな。苦情は蓬生に言え」
　千秋は手を延ばしかなでを抱き寄せる。
　詫びのキスだ。
　恋人として当然とばかりに舌を差し入れる。
　が、いつもならしつこいぐらいキスを繰り返すはずの千秋が慌てて飛びのく。
「地味子きさま昼に何を食った！」
「納豆巻きですけど」
「□▲▽×◎◆∞☆！」
　言葉にならない状態で撃沈する。
「納豆巻き禁止！いや納豆自体が禁止だ！！二度と食うな。そんなもん食ったあとじゃ百年の恋もさめるだろうが！！」

おしまい
201005170907